お餅のかたちは丸?四角?餅好きはお正月以外も食べたいものです

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 軽く打撲するのは序の口で、時には流血の傷を負うことすらある。  かくいうぼくも子どもの頃、地域の餅まきで大人の人波にもみくちゃにされて転倒し、怖い思いをしたことがある。  それ以来、餅まきはある種のトラウマになってしまって、積極的に参加することはなくなった。  大人になってすごーく久しぶりに餅まきに遭遇したのは、伊緒さんと和歌山の家に移り住んでからのことだった。  誰かの厄払いだったのか、新築祝いだったのかよく分からないけれど、基本的に餅まきを見かけたら誰でも参加してよいことになっている。  他府県の人からすれば季節はずれの餅まきを伊緒さんが面白がって、遠巻きに眺めつつまく人に手を振ってみたりしていた。  するとなんとしたことか、ものの見事に丸餅が2つ、放物線を描いて彼女の提げていた買物袋にすとん、すとん、と飛び込んできた。 「すごい!こういうの"日本昔ばなし"でみたことある!」  激しく心の琴線を揺さぶられた伊緒さんは、"なむなむ"とお餅の神さまに手を合わせ、お家に帰ってさっそくおやつにしたのだった。  ひとつはやわらかくなるまで湯に通し、たっぷりきな粉をまぶして"あべかわ"に。  もうひとつはぷっくりこんがり焼き目をつけて、砂糖醤油と海苔で"磯辺巻き"に。  やっぱり幸せそうにもっちもっちと咀嚼しながら、伊緒さんは改めてお餅の丸さに感心していた。 「おうちでおもちをつくれるといいのに……」  なんとなく哀しげにそんなことをいうものだから、 「ホームベーカリーに餅つき機能が付いてるらしいですよ」  と、あわてて言ってしまった。  伊緒さんの顔がぱあーっ、輝く。  これはおそらく、導入の方向で決まりだろう。  パンよりお餅の比率が多くなるかもしれないけれど、伊緒さんと一緒に小餅に丸めるのも、きっと楽しいにきまっている。
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