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北海道のラーメンに比べるとお鉢が小ぶりで、食べ盛りの男の人は足りないのじゃないかな?と思ってしまいました。
ところが、これには秘密があったのです。
なんと、和歌山ではラーメンと一緒に「早寿司」と呼ばれる鯖寿司を食べる習慣があり、その分に合わせてラーメンは控えめに盛り付けているのだそうです。
しかもたいがい各テーブルにゆでたまごなんかと一緒にどかんと置かれていて、お客さんは勝手にとって食べて「早寿司○個と、ゆでたまご○個もろたでー」と、お会計のときに自己申告するのです。
食べた個数をちょろまかすような不心得者はいないそうで、さすが徳川御三家の一翼を担う紀伊大納言のお国だと、心から感心したものでした。
夫から繰り返しお話には聞いていたのですが、いざ自分の目でその光景をまのあたりにしたわたしは、非常に興奮いたしました。
とんこつ風味というのはなじみがありませんでしたが、おしょうゆの香ばしさとほんのりとした酸味が心地よく、細い麺の口当たりともあいまってとてもおいしく感じました。
おそるおそる食べてみた鯖寿司も、意外なことにラーメンとすばらしく相性のよいものでした。
こってりしたスープの後味をお寿司の酢が中和して、ああ、これが「マリアージュ」と呼ばれる組み合わせなのかなあと、感動してしまいます。
たまご好きなわたしはテーブルのカゴに盛られたゆでたまごにもついつい手を伸ばし、お鉢の小ぶりさを補ってあまりあるくらい満腹してしまいました。
「ふわあーっ!おいしかったあ!」
お店を出た直後、わたしと夫は同じせりふをハモらせて笑いあいました。
おなかはぽんぽんで、「ラーメンを食べたぞー!」という満足感でいっぱいです。
「伊緒さんのお口にも合ったみたいで、よかったです」
夫がニコニコしながらそう言ってくれました。
ほんとうに、同じラーメンでもまったく違う系統のつくりなのに、どこか故郷の味を思い出させるような懐かしさもありました。
「うん、ありがとう!すっごくおいしかったわ!じゃあ今度は、札幌に行ったときにわたしがおいしいお店にご招待するからね!」
自信たっぷりにそう言ってしまったわたしですが、2軒しかお店を知らないことはまだ彼には内緒です。
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