美女と天ぷらとオトナの男。でもちょっと勘違いしてたかも

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美女と天ぷらとオトナの男。でもちょっと勘違いしてたかも

 これでもぼくなりの「オトナの男像」みたいなものがあって、いまだにちくちくとその影響を受け続けている。  あれはいくつのときだったか、子どもの頃にテレビで観たグルメ番組がその原風景のひとつなのだ。  いまとなってはもう誰だか分からないけど、勝新太郎と谷崎潤一郎を足して2で割ったような、「ただしい旦那様」がさまざまな料理屋さんを訪れる番組だった。  その恰幅のよさとどこでも平等に尊大な立ち居振る舞いは、思わず「ははあ」と思わせるものがあった。  ぼくが最もよく覚えているのは「天ぷら屋さん」の回だ。  江戸時代、出現期の天ぷらは屋台で気軽につまめるファーストフードのようなものだったそうだ。  衣にはあらかじめ味が付いていて、高級とはほど遠い庶民の味だった。  でも、現在では繊細な日本料理の代表格として、お店のハードルもすごく高いように思う。  旦那様はグレーの着流しにハンチングというこれみよがしなお衣装で、かたわらにはなぜか玄人筋とおぼしき着物姿の美女が寄り添っている。
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