美女と天ぷらとオトナの男。でもちょっと勘違いしてたかも

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 もちろん子どものぼくに「玄人筋」なんてボキャブラリーはなく、後年になってある日突然ぺかーっ、とまめでんきゅうが輝くように理解したのだった。  下駄履きの旦那様(以下、旦さん)は打ち水が施された敷石をぽからぽからと歩き、「天ナントカ」と屋号の染め抜かれたのれんを無造作にかき分ける。  かき分けたのれんはそのままに、片手で引き戸を開けて美女が入れるようにしてあげる。  ははあ、なるほど。  そして旦さんは店内に入った直後、壁に掛けられた一輪挿しのスイセンかなんかに気付いて、「おい、見てみい」的な雰囲気で声には出さずに美女へと流し目をくれるのだ。  お寿司屋さんのカウンターみたいなところに旦さんと美女は並んで腰掛け、きりりとした白衣も爽やかな職人さんが次々に天ぷらを揚げて、二人の目の前に置いてくれる。  間髪いれずに旦さんがひょいっと摘んでさくっとかじり、偉そうにもしゃもしゃと咀嚼し、素晴らしいダミ声でこう呟くのだ。 「なんとふくよかな・・・」  ふくよか!!  ”ふくよか”っつった!?ねえ!?  なるほどなあ!と思いましたよ、子どものぼくは。  
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