美女と天ぷらとオトナの男。でもちょっと勘違いしてたかも

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 しかしいかにリーズナブルとはいえ、初めての天ぷら屋さんという異空間に少々落ち着かない気もする。  伊緒さんとカウンターで隣り合って食事するというのも、すごく珍しい。  職人さんが太い棒みたいな独特の菜箸を使って、油に放った天ダネに衣を振りかけていく。  しゃわしゃわしゃわ、と五月雨が屋根を打つような小気味よい音を立て、みるみる天ぷらの形ができていく。  伊緒さんが職人さんの手際を興味深そうに観察して、時折(わあ!)と小さく歓声をあげている。  彼女がすごいのは、こうして外食する機会があると何かしらの技やレシピを、目と舌でコピーしてしまうところだ。  そうしてお家でそのメニューを再現してみせてくれたりするので、それこそ舌を巻く思いでいる。 「ご順に揚がります。お手元の天つゆか、そちらの天塩でどうぞ」  職人さんがそう言って、カウンターの前に据えられた油切り網に、揚げたての天ぷらをそっと置いてくれた。  「揚がったはしから、仇のようにかぶりつく」  誰の名言だったか忘れてしまったけれど、アツアツの一番おいしい状態ですぐさま頂くのがいいというのは、食べる側の作法として理にかなっている。  
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