美女と天ぷらとオトナの男。でもちょっと勘違いしてたかも

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 たったいま目の前で揚げてくれた天ぷらの、なんと滋味あふれること。  さくさくの衣はむしろ軽やかで、高温で火の通った魚介や野菜は、ジューシーだとすら感じられる。  これかあ。”ふくよか”だというのは。 「おいしい!」  思わず伊緒さんが声に出したのを聞いて、職人さんが口角だけで微笑む。 (そう、よかった)  いつも伊緒さんが口にする言葉が聞こえてきそうだ。  海老に烏賊に鶏天、魚はカレイ。野菜はかぼちゃになす、ししとうに舞茸。  たくさん食べられるかと思っていたけど、一通り出たところでもうほとんど限界まで満たされてしまった。  繁盛しているので長居せず、早々に席を空けることにする。 「すごくおいしかったわ!どうもごちそうさまでした」  ぽんぽんになったおなかをさすりながら、伊緒さんがご丁寧におじぎをする。 「いえ、どういたしまして」   ぼくもあわてておじぎを返す。  おいしい天ぷらは職人さんの力だけど、彼女が喜ぶとぼくもうれしい。 「ねえ。涼しくなったら、お家でもまた天ぷらしようね!」  そんなことを言ってくれるのもさらに嬉しくって、すごく幸せな気分だ。    あれ?  これって・・・。  旦さん超えた・・・?  ぼくはたいへん満足して、 「なんとふくよかな・・・」  小さな声で、そう呟いてみるのだった。
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