おばあちゃんのレシピ帳。少女時代の伊緒さんと、お料理の先生

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おばあちゃんのレシピ帳。少女時代の伊緒さんと、お料理の先生

 ねえ、おばあちゃん。  塩少々ってどんくらいだべか。  こんなぺっこだら、味しないしょー?      幼いころのわたしは"塩少々"のことを文字通り、ほんのすこしだけという意味だと信じこんでいました。  どのお料理のレシピを見聞きしても、かならずどこかに"塩少々"とあるのがふしぎでたまらず、それでは味がしないはずだとおもったのです。 「"少々"ってのは、"ちょうどいい量"って意味だよう」  祖母はいつもそう言って笑い、わかったようなわからないようなわたしの頭を、やさしくなでてくれるのでした。  ほとんど女手ひとつでわたしを育てた母はいつも忙しくて、代わりに面倒をみてくれたのが祖母だったのです。  祖父はわたしが物心つく前に他界したので、昔ながらの大きな薪ストーブのあるお家に、祖母はひとりで暮らしていました。  祖母の家は街中にありましたが、その周りには実のなる樹がたくさん植わっていて、ちょっとした森みたいになっていたのです。  かりんずとかハスカップとかグスベリーとか、天然のフルーツが実る庭はわたしにとって最高の遊び場でした。
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