おばあちゃんのレシピ帳。少女時代の伊緒さんと、お料理の先生

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 わたしは14歳のとき、あることがきっかけで母と暮らしていたアパートを飛び出し、中学卒業までを祖母のもとで過ごしました。  思春期まっさかりだったわたしは、体重を気にしてみたり美容を気にしてみたり、屈託なくごはんを食べることができなくなっていました。  でも祖母は、そんなわたしに食事を無理強いするのではなく、サラダに豆や賽の目のじゃがいも、手作りのベーコンをたっぷり入れるなど、自然に栄養バランスがとれるように心を砕いてくれました。  そのころには部活や進学のための勉強で帰りも遅くなり、料理のお手伝いもほとんどしていませんでした。  時おり一緒に台所に立つことがあると祖母は嬉しそうに、 「いおちゃん、準備は?」  と、わたしが幼かったころと同じように声をかけるのでした。  わたしはなんだか恥ずかしくって、 「おーけーだよ、おばあちゃん」  と、少しぶっきらぼうに応えたものです。  祖母との暮らしが終わりを告げたのは、わたしが高校進学とともに寮に入ったことによります。  旅立ちの朝、わたしを見送りにきてくれた祖母は少しまぶしそうな目をして、 「準備は?」  と、茶目っ気たっぷりに言いました。
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