おばあちゃんのレシピ帳。少女時代の伊緒さんと、お料理の先生

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「いおちゃん、これ。おばあちゃんからあなたに」  母がそう言って差し出したのは、"レシピ帳"と書かれた厚手の古いノートでした。  わたしはものすごく久しぶりに素直にお礼を述べて、祖母の部屋でひとりノートを開きました。  わたしのために、あの魔法のような料理の数々のつくり方を残してくれたのだと、そう思いました。  でも、そこに書かれていたのは、単なるマニュアルではありませんでした。 「帰ってきた夫があんまり疲れた顔だったので、煮物に砂糖を多めに入れた。いつもより箸がすすんで、少し元気になってくれたみたいだ」 「娘がおなかを冷やして風邪をひいた。たまご雑炊におろしショウガをちょっと加えてみると、ほどなく身体がポカポカに温まった」  等々、それは家族がどんな時にどんなものを喜んで食べたのかという、愛情あふれる処方箋の記録でした。  前半は夫、つまりわたしの祖父のこと。  中盤はその夫と娘、つまり、わたしの母のことも。  そして後半は、幼い頃からのわたしのことで、びっしり埋まっていたのです。
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