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さあさあ、みんなでジンギスカン!里帰りと伊緒さんのお母さん
ついひと昔前まで、北海道へ旅するにはフェリーが最も安い足だった。
いまでこそ格安の航空会社がさかんに利用されるようになったけれど、旅人にとって船は長きに渡り移動手段の王だったのだ。
伊緒さんと知り合った頃はLCCが登場する直前で、まだフェリー華やかなりし時代の名残りを留めていた。
たとえば関西からなら京都の舞鶴港から小樽まで。
関東からなら茨城の大洗港から苫小牧まで。
それぞれおよそ20時間の船旅だ。
そう説明するとたいがいは驚かれて、さぞや不便だったでしょう、退屈だったでしょうといわれるけれど、さにあらず。
船の中はちょっとしたホテルみたいな造作で、海の見える大浴場は入り放題だし、日中はミニシアターで映画を上映するし、レストランでの食事はおいしいし、時間をもてあますようなことはなかった。
それに何より、延々と続く大海原をながめつつゆったりと過ごす時間は、とってもぜいたくなものだと思う。
一番安い2等船室は雑魚寝の大部屋だったけど、そこでいろんな人と知り合うのも面白かった。
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