さあさあ、みんなでジンギスカン!里帰りと伊緒さんのお母さん

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 昔ながらの漢方薬を文字通り行商している人や、定年後に夫婦二人で船旅を楽しむ人、または大家族でフェリーに車を積み込んで移動する人等々、旅人のデパートみたいな感じがしたものだ。  食費を抑えたい人はカップ麺や登山用食料などを持ち込んでお湯を注ぎ、そこかしこで山賊の宴のように味わっている光景も実に風情があった。  ぼくがフェリーで北海道に旅行していたのは年に一度、伊緒さんの帰省にくっついてのことだった。  彼女のおばあちゃんの追悼式を行うのが毎年の習慣で、そのタイミングに合わせて里帰りしていたのだ。  法事、といわないのはおばあちゃんだけロシア正教の信徒だったからで、仏教と違って供養や慰霊という概念はない。  でもお盆みたいに家族が集まり、お墓に花を供えて一年間の出来事を報告し、その後食事をするというささやかなイベントとなっている。  ぼくが初めて伊緒さんのお母さんに会ったのもその会のときで、事実上結婚のお許しをいただくためのご挨拶でもあった。  もうめちゃくちゃに緊張しつつ、待ち合わせ場所である共同墓地近くの教会へと赴いたのを覚えている。
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