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それこそ右手と右足が一緒に出てぎくしゃく歩いてしまったが、
「……古武道のナンバ歩き?」
と、伊緒さんは無邪気そのものだ。
でも、ぼくよりさらに緊張していたのは、他ならぬ伊緒さんの母上、真緒さんの方だった。
その後ろ姿を見つけて、
「母さん」
と伊緒さんが声をかけると、真緒さんはぐぎぎぎっ、という音がしそうなほどぎこちなく振り返った。
「は、はじめまして!いおちゃ……伊緒の、は、母親です!」
噛み噛みだ。
「初めまして、あ、秋山と申します!い、伊緒さ……お嬢様とお、おっふ、お付き合いさせていたらいてまふ」
ぼくも噛み噛みだ。
「こんど結婚しまふ」
伊緒さんもちょっと噛んだ。
そしてもう大事なこと言っちゃった。
噛み噛み同士、真緒さんとはすぐに打ち解けた。
おっとりしたしゃべり方のとても可愛らしい人で、伊緒さんがそのまま年齢を重ねたらこうなるんだろうなあ、という容貌だ。
おばあちゃんの墓前に挨拶をして、お花を手向ける。
これがそのままぼくたちにとっての結婚報告になって、真緒さんはニコニコしてその様子を見ていてくれた。
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