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鍋が加熱されたところで真緒さんは、半球状に盛り上がった部分の周囲にキャベツ・もやしなどの野菜を並べ、頂上のスペースにお肉を置いた。
こうするとお肉の脂や旨みが溝を通って流れていき、下のほうの野菜に絡まるのだ。
なるほどなあ。
「ほれほれ、晃平さん。若いんだから、食べれ食べれー!」
初対面の緊張もどこへやら、ほろ酔いの真緒さんがすっかり親しげにお肉をすすめてくださる。
ジンギスカン用のタレも、普通の焼き肉のタレよりさらっとして甘みと酸味のバランスがよく、いくらでも食べられそうだ。
「晃くん、あんまり焼きすぎないほうがおいしいよ!ほら、ここ、これ食べれー!」
と、伊緒さんもかいがいしく世話をしてくれる。
なんかすごく甘やかされて面はゆい限りだけど、ふとあることに気が付いた。
伊緒さんと真緒さん、ほとんど言葉を交わしていない。
伊緒さんが生まれてすぐに離婚した真緒さんは、女手ひとつで娘を育てるためにとても忙しく働いていたと聞いている。
代わりにふだん面倒をみてくれたおばあちゃんのことを、伊緒さんはとても慕っていたという。
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