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ある時期にはお母さんとではなく、おばあちゃんと暮らしていたそうで、母娘の関係性も単純ではないようだ。
でも、これは……。
二人の間に会話がないというのは、ちょっと辛い。
どうしたものかと思っていると、
「あっ」
と、伊緒さんが小さく声を上げた。
「夢中で食べてたら服にタレはねちゃった。しみになる前に洗ってくるね」
そう言って席を立った。
「ハンカチでも絞って、たたき洗いするんだよー」
真緒さんが声を掛け、伊緒さんは「うん」と簡潔に返事をする。
おっ、会話成立……なのかな?
「ごめんねえ、そっけない娘でね~」
苦笑いの真緒さんがそう言って、お肉をぼくの小皿に入れてくれる。
「わたしはいい母親ではなかったから。お互いどう接したらいいのか、とまどっちゃって。でも、あんなに楽しそうなあの子の顔を見たのは、本当に久しぶりだわ。晃平さんのおかげだと、感謝しています」
真緒さんのそんな言葉に、ぼくは胸がいっぱいになってしまった。
きっと伊緒さんには面と向かって言えない、親としての本音なのだろう。
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