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伊緒さんと手分けしてどんぐりを拾い、瑠依さんに手渡すと、
「ありがとう……。これはクヌギね」
「こっちはマテバシイ」
と、樹種を言いながら頬を赤らめたのだった。
それ以来ぼくはすっかり瑠依さんに親しみをいだくようになったのだけど、実は彼女はただのどんぐり好きではない。
本職は大学の食文化史研究所に籍を置く学芸員で、縄文時代からのどんぐり食についての研究をライフワークとしているのだ。
"どんぐり姫"の二つ名で呼ばれる名うての研究者、というのが瑠依さんの正体なのだけど、そのことはまた、別のお話。
伊緒さんも瑠依さんも、そのかわいい見た目とは裏腹に好き嫌いがはっきりしていて、思ったことはきっぱり口に出すという気性の激しさを秘めている。
特に瑠依さんは、ビジネスシーンで使いがちな摩訶不思議なカタカナ言葉に敏感で、はたから聞こえてくる会話にも容赦しない。
「ほぼほぼコンプリート」
「ざっくりとフィックス」
「なるはやでリスケ」
などとカフェなんかで聞こえてこようものなら、
"ぁあぁん!?"
みたいな表情全開で、がきりんっ、とアイスティーの氷を噛み砕いたりする。
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