"ピッツァ"は"ピザ"のオサレな言い方…ではないんですって?

7/7
前へ
/111ページ
次へ
 瑠依さんはあいかわらずにこりともしないけど、ひとさし指を自分のほっぺたに当てて、"ヴォーニッシモ"と、最大限の賛辞を送る。  よくよくお話を聞いてみると、瑠依さんとこのお店との出会いは"どんぐり"がきっかけだったそうだ。  縄文時代の遺跡からどんぐりを主体とした小さな炭化物が出土し、"縄文クッキー"として一躍有名になったのは周知のとおりだ。  瑠依さんはどんぐり食研究の一環で縄文クッキーの再現実験を行っていたが、直火や熾火での加熱でできるかぎり当時の状況に近づけることにこだわっていた。  しかし、実験にたえる量を作るためには設備の問題がある。  そんなとき、「石窯焼きピッツァ」というこのお店の看板を見かけてひらめき、何度か食事をしたのちにおそるおそる、石窯を使わせてもらえないかと交渉したのだという。  オーダーストップのあとでなら、という条件で店主ご夫妻は快諾してくれ、研究はめでたく順調に進んでいるそうだ。  しかし通ううちに瑠依さんはすっかりこのお店のピッツァのとりこになり、こうしてぼくと伊緒さんを連れてきてくれたのだった。 「"どんぐり姫"の頼みとあれば、いつでもどうぞ」  そう言って笑うご夫妻はとっても素敵で、珍しく瑠依さんが頬をゆるめる。  伊緒さんはよほどおいしかったのか、話を聞きながらもネコのように目を細めてゴロゴロのどを鳴らしている。  こんど来るときは瑠依さんの実験にくっついて、ピッツァと一緒にどんぐりのクッキーもいただいてみたいと思っている。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

143人が本棚に入れています
本棚に追加