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やばい、伊緒さんがもう、ほぼマスターにしか見えない。
素直にハイボールで喉を湿らせ、サバ缶のおつまみを一口。
水煮、とはいうもののオイル漬けのようになったサバの肉に、醤油のコクが絡みあう。
フルーティーなオリーブオイルが魚臭さを打ち消して、とっても上品な風味だ。
なにこれ、めちゃくちゃ旨い。
正直、缶詰をあなどっていた。
おそるべし、缶詰。
おそるべし、缶詰バーio。
「あの、よかったら伊緒さ……マスターも」
「いただきましょう」
マスターのグラスにも缶ハイボールを注ぎ、カチン、と乾杯してぐいーっ、とあおる。
しゅわしゅわして、少しスモーキーな香りがして、ハイボールってこんなにおいしかったんだなあ、と思ってしまう。
「お顔色がさえませんね。奥様と喧嘩でもされましたか」
ぎくっ。伊緒さ……マスターがすました顔で問いかけてくる。
「ええ、じつはちょっと……ね。よくわかりますねえ」
「ふふ。この商売も長いですから」
長いんだ。
早くもふんわり酔ってきたアタマで、そりゃあたいしたもんだ、さすがプロはちがう、などとしきりに感心してみる。
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