ふたり

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 恒の家に紗希が来た。 「こうちゃん、食べたいもの言ってくれなかったから、とりあえず冷凍うどん買ってきたけど、今食べれる?」 「いや、食欲無かったから。あー、なにもしなくていいから」  紗希が来るといつもそうだ。しなくてもいいことをして家のなかを引っ掻き回していく。半年くらい前に来たときは会社の書類を「整理」してくれて、本棚の中から会社のプレゼン資料が見つかったこともあった。 「そんなこと言ってなんにも食べないから風邪引くんだよ、ね、食べよ」  紗希は恒の意見など聞かずに土鍋を出してガス台にかけた。 「その土鍋どこから出した?」 「え、こうちゃんの家来た時にあげたじゃん。シンク下に入れていたんだけど、気づかなかったって......うわ、紗希、悲しい......」 「土鍋とか手入れ大変じゃん、後々面倒だから普通に鍋で作ってよ、まぁ作んなくていいから、土鍋しまっておいて」 「もう材料入れちゃったよ......」  どうもすれ違いが多い、というか紗希のから回りがひどい。紗希はカチャカチャとガス台をいじっているがまだ火はつかない。 「なぁ、紗希。今日は本当に良いから。ほんと、デートの件は申し訳ないけど、これ以上、何もしないでくれ、頼む。それに紗希に風邪うつすと申し訳ないから」  恒の頭痛が酷くなっていた。熱も出てきたようだ。咳をしそうになるが堪える。紗希には早々に帰ってもらいたい。できるだけ穏便に。  紗希はガス台をいじるのを止め、泣きそうに鼻をひくつかせながら恒の方を向いた。 「こうちゃん、の、役に、たちたかった、のに、わたし、邪魔だった?」  本心では「そうだよ」と思っているが、これ以上の面倒事は勘弁してほしい。 「いや、ほら、風邪うつすと申し訳ないし」 「なによそれ、こうちゃんが罪悪感を抱えないための方便じゃん、嫌なら嫌ってはっきり言いなよ」  目を潤ませながら紗希の語気は荒くなっていった。 「大体さ、来てほしくないなら早く連絡してよ、自分だけ傷つかないように、さ、相手を思いやっているから、とか、ほんと、ずるい」  紗希の目からついに涙がこぼれた。
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