14.快方へ

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  「今夜、一人で眠れんのか?」  リッキーが聞く。 「お前は? 大丈夫か、僕がいなくて」 「俺、タイラーんとこに泊まるから」  こんなに長いこと寮を離れることになるとは思わなかったから、リッキーは一日かけて部屋を片付けてくるつもりなんだ。 「俺、想像したくねぇんだ、冷蔵庫の中身」 「ごめん。一人でやらせることになっちゃって」 「あ、いいんだ、それは。片づけは妻の役目だし。フェルがいたってどうせ役に立たねぇのは分かり切ってる」  そう言って雪玉を投げて逃げたリッキーを、僕はまだ追いかけ回すことが出来ない。かがんで雪を掴むのも厳しいし。 「フェル! ごめん、つい」 「いいからキスをくれ。それで許すよ」  濃厚なキスを受け取る。今日は渡すんじゃなくて受け取るだけだ。まだ……セックスは早いし、僕がその気になっちゃまずいから。  僕らはこの一ヶ月でずい分と穏やかになったと思う。僕はコカインをやっとの思いで吹っ切ったし、リッキーは心配はしてくれたけど僕の頑張りを信じてくれた。寝る部屋は違ってもリッキーは眠れたし、互いの距離間だけに振り回されることが減ってきたように思う。だからリッキーは一人で寮に行く決心が出来たんだ。 「まだしばらくここにいるつもりで用意して来てくれよ」 「うん。そうする」 「……いいよな、このまま世話になっても」 「ボブに取っちゃそれが何よりの謝罪なんだって言うから俺はそうしたい」 「うん……有難いよ。ボブは僕のコカインのことを知っても態度を変えずにいてくれる……ジャンキーなのにな」 「ばか! そういうこと言うなよ…… フェルはもうジャンキーなんかじゃねぇよ、戦うことを知ってるんだから」  ボブが言っていた『相談したいこと』って何だろう? リッキーから聞いた時、見当もつかなくてあれこれ二人で話したけど、相手はボブなのだからきっと心配するようなことじゃないだろうという結論に達していた。  リッキーが帰ってきたら食事会をすることになっている。そんな席に座るのも久しぶりだ。  僕のケガで痛みが残っているのは背中くらい。寝る時の姿勢と大きな動きに気をつければ、日常的にはもう困らずにいる。後は着替えかな? リッキーがいなければちょっと時間がかかっちゃうけど、ゆっくり動けばそれもなんとかなるレベルだ。  ボブは喜んでくれた。 「食事会、楽しみにしてるよ! けど背中が治るまではここにいて欲しい。火傷の痕が残るのは心苦しいけど…… でも他の部分がちゃんと元に戻ってから考えよう。頼むよ、そうしてくれ」 「ありがとう。僕も食事会楽しみなんだ。散歩も出来るようになったし、ここにいると気持ちが豊かになるって言うか…… とても落ち着くんだ。リハビリの間、ここにいられるの嬉しいよ」  ボブがにこにこと頷いてくれるから、僕の方がいいことをしているような気がしてくる。  
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