14.快方へ

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   散歩を始めて何度目かの診察で、僕はやっと帰寮しても大丈夫Dr.ラッセルのの許可を得た。 「ほんとにいいの!?」  リッキーの声が興奮している。 「まだ服薬は必要だし、二週間に一度の定期健診も受けてもらうけどね。これは私の病院の住所と私の携帯の番号です。病院に来てもいいし、ここで診察をしてもいい。連絡をください」 「はい!」 「長いことありがとうございました」 「まだ完治したわけじゃないから。でも日常生活には戻れますよ」  この知らせをボブもヒューズもすごく喜んでくれた。 「本当は正式なディナーをしたいけど君たちが困ってしまうからね。今夜は食事会ということにしよう」 「ありがとう!」  リッキーの声が飛び跳ねている。  食事会の後、コーヒーを飲みながらボブが話を切り出した。 「フェル、リッキー、話があるんだ」 「話?」 「僕から君たちへのオファーがある」 「オファーって」 「僕の事業への参加だよ。僕の実家がどういう状態か、もう話したね」  ボブの両親は、甥の起こした放火事件ですっかり神経が参っていた。だから実質的にボブが事業を受け継ぎ始めている。経営している事業、参画している事業は幅広いのだと聞いていた。 「その中にね、海洋開発研究事業があるんだ。両親はこの事業から手を引くつもりでいた。いわば慈善事業で、対外的なアピールのためにあるような環境保護団体なんだよ。利益を生むわけじゃないから事業の撤退が検討されていた。けど僕たちのような立場の者こそ、こんな活動から手を引いちゃいけない」  そんな話は初めて聞いた。ボブはあまり経営のことを話さなかったから。 「けど僕ら、まだ学生に過ぎない。事業とかそういう世界には」 「じゃ先のことを具多的に考えているかい? 計画があるんだったらもちろんそれを最優先にしてもらって構わない。君たちの人生だからね。でも僕はどうしても君たちに参加してほしい。大学と並行して、研究室に入ってみないか? 生きた勉強ができると思うよ」  思ってもいない話で、ただただ面食らうばかりだ。 「メリットは充分ある。君らの学費と生活費を報酬の一部として出そう。報酬は君たちの要求に基づいて、どこよりも高く提示したい。僕は君ら夫婦と契約したいと思っているんだ」  リッキーと僕は顔を見合わせた。こんなにいい誘いがあるだろうか。でもそれに見合うだけのなにが僕らに出来ると言うんだろう。 「僕ら、ボブの申し出に応えられるだけの何かを持っていると思えないよ」 「有り余る情熱があるよ、フェル。こういう事業では欠かせないものだ。単なる研究者じゃ看板だけの海洋開発になってしまうだろう。でも君らなら安心して任せられると思う。困難に立ち向かうだけの力を持っているからね。すぐに返事を欲しいとは言わない。考えてみて欲しい。君たちの前向きな返事を待っているよ」  
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