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夕食は賑やかだった。アナとマリーが相変わらずやかましくリッキーをあれこれと質問攻めにしている。ビリーは泊まり込みで教授と昔の建築の研究をしているらしい。ジェフは会社に行っている。
グランマは焼き立てのパイを持ってきてくれた。
「普段は母さんとアナとマリーだけってこと?」
「ええ。でもジェフが頻繁に帰ってくるようになったからそんなに寂しくないよの」
「そう……」
「どれくらいいられるの?」
リッキーが勢い込んで言う。
「一週間くらい! 俺、母さんをいろいろ手伝うよ。買い物とか家のこと」
「ありがとう。助かるわ」
母さんが嬉しそうだ。三人だけの生活じゃ本当に寂しいだろう。あれっきりアルもここには来ていないようだし。
僕は旅の疲れも出ていて、母さんとリッキーが片づけをしている間にソファで眠りこけそうになった。
「待たせてごめん」
見上げるとリッキーが心配そうに覗いている。
「疲れたんだろう? 離れに行こうよ」
「心配ないよ。大丈夫だ」
立ち上がって伸びをする。途端に背中に痛みが走った。
「ほら! 無理すんなよ」
「母さんには言うなよ。また心配かけるのはいやなんだ」
「分かってるよ」
ここに来る時、僕はいつもケガをしてるような気がする。母さんの悲しい顔は見たくない。
母さんにお休みのハグをして、僕らは離れに向かった。
離れは片付けられていて、がらくた入れだった部屋もきれいになっていた。グランパは本当にここを僕たちに譲る気なんだ。
「俺さ……」
「ん? なんだ?」
「フェルしかいないって思ってたけど違うんだって分かった。母さんもいるし、グランパやグランマ、うるさいけどアナやマリーもいる。フェルの家族は俺の家族なんだって、今日改めて実感した。来て良かった!」
「そうか。リッキーがそう思ってくれて嬉しいよ」
「ここに来るとなんだか甘ったれちゃうんだ」
リッキーが照れくさそうに言う。そうだよ。お前にはあったかい家族がいるんだ。思いっきり甘えられる家族が。
まだ無理が出来ないからその夜も抱き合うだけで眠った。まだまだセックスはお預けだ。でもリッキーは僕がいることで満足してるみたいだ。
次の日はリッキーが母さんと買い物に行っている間、グランパの所で過ごした。
しばらく大学の話や離れの片づけで出てきたグランパたちの思い出の品なんかのことでお喋りをする。話が途絶えて、グランマの淹れてくれたコーヒーを飲みながら窓の外を眺めていた。今日はいい天気だ。もう春が近いことが分かる。
「フェル。どうした? なにか話があるんじゃないか?」
グランパはいつだって鋭い。いつの間にか、僕はボブの話を思い出していたんだ。
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