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「きっとそれね、フェルが死にかけた時の恐怖が蘇ってるのよ。私はフェルが無事に帰って来てからの姿しか見ていないでしょう? でもあんたはそこにいて目の前で失うかもしれない愛する人をたった一人で見ていた……そのせいよ。足を切断するかどうかまで自分一人で考えなくちゃならなかった。リッキー、あんた、頑張ったの。自分が大変だったのに、フェルのために頑張ったのよ。大丈夫だから」
シェリーが何度も肩を抱いてそう言ってくれた。怖い、怖い、今頃になって怖いんだ……
フェル、いるよな? そばにいるよな?
杖は当分取れねぇと思う。でも明るい顔のフェルが眩しくて……
「ごめんな、荷物持たなくて。左手は杖だけど右手は空いてるんだから少しは持てるよ」
「大丈夫、俺一人で。たいした量じゃねぇよ、こんなの。それに車あるし。ホントにくれた人にお礼言いてぇ!」
あれ? 変なこと言った? フェルが一瞬困った顔に見えた。
「そうだね。その人多分、もうアメリカに帰って来ないと思うんだ。大事にしてた車なんだって。だから僕たちも大事にしような。もっといいのが欲しくなったら言って」
「いい。俺、あれ好きだ」
「そうか」
フェルが笑ってくれたからキスした。俺のフェル。俺の笑顔。ちゃんとここにいる。
俺たちは不思議だけどまだマリソルでのこと話しちゃいねぇ。わざと避けてんじゃなくて、なんか話せねぇんだ……
今は、この時間に浸っていたい。こうやってただ一緒にいたい。
フェルのリハビリを手伝うのは俺の喜びになってる。一緒に汗を流して、一緒に座り込んで。
フェルは痛くなると俺を見てにっこり笑う。幸せだと思う。
「お前が一番の薬だから」
蕩けるような言葉……セックスはまだしてねぇのに、そんなんで満足感が溢れるんだ。
なのに……どうして不安になるんだろう……もういなくなんねぇのに。
「っ……!」
「フェルっ!」
「だい、じょうぶ、ちょっと痛んだだけだから」
「なぁ、やっぱ病院に行こうよ……俺、心配だ」
「いいって。傷口も乾いてきたし。後は良くなる一方だよ。痛みだって結構減ったんだ」
「お前、そういうの嘘つくから」
「嘘? 僕はお前に嘘なんかつかないよ!」
違う、フェルは気づいてねぇ。無意識な嘘。俺を安心させるための嘘。それを聞くと……堪んねぇ気持ちになる……泣きたくなるからフェルにしがみつく……
「どうしたんだよ、この頃変だぞ」
「ううん……ううん、大丈夫だ。俺、大丈夫だから」
なるべく目を離さねぇように。この前は椅子に杖が引っかかって転んだ。だからきっちりフェルの歩くところは広く空けてある。
シャワーでは特に気をつけてる。もう自分一人で大丈夫だって言うけど、心配で心配で……
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