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「リッキー、聞いて。君は一人になってしまっただろ? 国にはもう誰もいない。ごめん、こんなこと言って。けど、多分そのせいでフェルもいなくなったらどうしようって怖くなってるんだよ。あんなに君を愛してる人はいないよ。助けになるかどうか分からないけど僕らだっている。君は一人になんかならないから」
シェリーに聞いたんだと思う。エディはそんなことを言ってくれた。
「エディ……ありがとう。変なんだ、俺。分かってんだよ、考え過ぎだって。でもどうにもなんねぇんだ。あん時、足切らなくて済んだから良かった。でも……もしその必要があったら……切断してもしなくてもフェルが死んでたら……痛い思いだけさせて死んじまってたら……怖いんだ……もう平気なのに……フェル、目の前で笑ってくれてるのに…なんでだろう、怖いんだ」
「フェルと、そのこと話した?」
「ううん……話せねぇよ。だってあんなに頑張ってんのに、今は俺のことなんかで悩ませたくねぇんだ」
「僕は話すべきだと思うよ。フェルは懐が深い。大丈夫だよ、受け止めてくれるよ」
「……エディ、このことフェルには言わないでくれよな? お願いだ、言わないで…」
「……分かった。言わないよ。でも自分から言うんだよ、必ず。それが二人のためだと思って」
[リッキーっ! 逃げろっ!]
[いやだ、フェルも一緒だ!!]
浮かんでる俺の体。両手を伸ばす、精一杯。両手を突き出す。フェルが、フェルが手を伸ばす、俺に。指先が触れそうになる。
[リッキーっ!]
[フェルっ!!]
一瞬触れた指先。でも……俺の手に残ったのはスカーフだけ……
「……ッキー! 起きて、リッキー!」
「フェル……」
胸が……苦しい……
「ほら、おいで。ここにいるよ」
「いる? フェル、いる?」
「ほら、触って。僕だ。お前を抱いてる」
「うん、うん。俺、抱かれてる。フェルに抱かれてる」
「そうだよ。ちゃんと僕がいる」
コポコポコポ……コーヒーの匂い……カチャカチャいう音。トン、トン、トン……杖を突く音。
俺はがばっと起きた。
「フェル?」
声が出る前にベッドの中で手が探した。
「フェル!?」
「こっちだ、リッキー。待ってて」
開いてるドアに掴まって向うを見た。明るい光の中でフェルが俺を見た。きれいな青い瞳だ……にこっと笑って『おいで』を手でしてくれる。
俺は『今』が壊れそうな気がしてそっと歩いた。
「ほら、奥さま。コーヒーをどうぞ」
フェルは杖を突いてんのに椅子を引いてくれた。
「うん。ありがとう。早く起きたの?」
「今9時になるよ」
「え? ホント?」
「よく寝てたから。いつも起こしてもらうからね、今日はゆっくり寝て欲しかったんだ」
コーヒーを一口飲んだ。
「美味い……」
「良かった! リッキーは何でも上手だからさ、コーヒーくらいはちゃんと美味しいの淹れたかったんだよ」
嬉しそうな顔だ。
「フェル……俺、幸せなんだ……」
「知ってるよ。僕もそうだから」
「でも……」
「ん?」
「なんで……」
涙が落ち始める…
「なんで怖いんだろう……」
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