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フェルの差し出す腕に手を添えて、ホテルのレストランに向かった。
「ハワード様ですね?」
その声にフェルが「はい」と言う。案内された席で「いい」って言う前に椅子を引かれちまったから、恥ずかしいけど澄ました顔して座った。でも周りがみんなこっちを見るから、とにかくこっぱずかしい。
「ワインはリッキーが選んで」
そう言われて、スパークリングワインを頼んだ。最初勧められたブルゴーニュ・ムスー ピノ・ノワール セックをテイストしてみる。明らかに芳醇すぎて思わず「しつこい!」って呟いた。ワインリストからさっぱりしたイチゴ風味のスクリューキャップにしてもらう。これならアルコールって言ったってたいしたことねぇんだ。それに一杯しか飲ませる気はねぇし。
「きれいな色だね!」
「うん、これってさ、肉にも魚にも合うんだよ。お前、肉だろ? 俺魚だし。色、スーツにも合うからさ」
「やっぱりこういうのはリッキーだな。こういう所に来てもどこの令嬢にも見劣りしない」
きっと俺は真っ赤になってたと思う。フェルの目を見れなくって俯いちまった。
「リッキー……今夜は特にきれいだ……でも、明日は胸の開いた服で頼むよ」
そうだ、そう言われてた。毛皮のコート持ってきてんだから。
美味いコースを食べて、コーヒーになった。
「奥さま。ちょっとレストルームに行ってくる」
ウィンクして行くフェルの背中を目で追いながら、俺はぽっと熱い頬っぺたを撫でてた。
「失礼ですが、お名前を教えていただけませんか?」
振り向いたらやたらゴールドを身に付けてる男。金のかかったスーツにゴールドの時計、指輪、太いブレスレット。歯が金でもおかしくねぇくらいだ。
だいたい失礼だ、テーブルについてるカップルに声かけるなんて。
「お部屋はどちらですか? 花を贈りたいんですが」
「連れがいるんです」
「お相手は今どちらへ?」
「レストルームに行ってます」
俺にしたって、こんなとこで喧嘩したかねぇ。せっかくゆったりと奥さま気分なんだし。
「こんなに魅力的な人を放ったらかすなんて。ちょっと酔っているでしょう。良かったら冷たい風にでも当たりませんか? 夜景がとてもきれいに見える場所があるんです」
俺はついククッて笑っちまった。
「なにか……あぅっ!」
「僕の妻に何か? ご用件なら僕が承りましょう」
顔はにこやかで冷たい目。後ろに捻り上げた腕で相手は動けねぇ。
「し、失礼。お連れが帰られたかと……」
「こんなに美しい妻を残して?」
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