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十六 データベース
翌日。
信州信濃通信新聞社の田辺文章編集長の部屋で、真理はオフレコを確約させて、これまでの事態を説明し、信州信濃通信新聞社のデータベースで曾祖父の裏の役職を調べたい旨を伝えた。田辺編集長はしばらく考えていたが、
「わかった。特別に部外者のデータベース使用を許可する。
名目はだな・・・、『敗戦記録』とでもして、撃沈した戦艦の情報を記事にしてくれ。
その間に小田と助手が他の事に気づいても、私は関知しない」
険しい顔でそう言い、片目をつぶって目配せした。目は笑っている。他言無用、極秘任務だ。
「わかりましたありがとうございます」
真理は田辺編集長に礼を言った。
「そうと決ったら、サスケと呼んでいいな。君はこれを付けろ。
君の名前と小田との関係を教えてくれ」
「飛田佐介です。真理の婚約者です」
佐介は淀みなくそう言った。
「まちがいないな?」
田辺文章編集長は真理を見つめている。
「事実です」
真理も毅然としている。
「わかった。
これで、君の卒業後の就職先が決ったな。長野市の奨学金をもらってるんだろう?」
佐介と真理の態度に、田辺編集長は納得したらしかった。引き出しから、研修社員証を出して、佐介、と書き、佐介に渡した。真理の弟と呼んでいたが、田辺編集長は真理と佐介の関係を理解していた。
「知ってんですか?」
「育善会総合病院の遠藤院長から聞いたよ。院長は厚かましいから気をつけろ」
「何かあるんですか?」
「院長の厚かましさは往々にして度を越えて、いろいろ要求するから、気をつけるんだ。
余談はさておき、早速作業にかかってくれ。デスクは西側のデスクが空いてたな。小田とは反対側の席だ」
そう言うと田辺編集長は、追いだすように佐介と真理を部屋から退出させた。
社会部への挨拶もそこそこに切りあげ、端末でデータベースを開いた。
旧日本軍の諜報機関に関する記録を調べたが、これまで一般的に語られた陸軍中野学校の記録や、戦時中の日本政府の各省庁の説明しか出てこない。
「信州信濃通信新聞社のデータベースなんてこんなもんだろうな。なんせIT化されたんが戦後四十年くらいだ。その間にヤバイ公式記録は処分されてるもんな。
他の所に記録が残ってねえかな・・・」
真理も信州信濃通信新聞社の記録データに違和感を感じている。
「こうなりゃあ、また、国会図書館だな・・・。だけど妙だな。
おーい、タマちゃん。ちょっと見とくれ!」
真理は社会部の中ほどで数台の端末に向っているポニーテールの女を呼んだ。
IT担当の野本タマは端末をしばらく操作し、
「これ・・・、セキュリティーがかかってますね。
一定のキーワードで自動的に閲覧拒否なるように、社外からの操作です・・・・」
と言った。
「キーワードは?」と真理。
「サスケさんの入力記録は拒否されてます」
佐介が入力したのは、旧日本軍の金塊を運んだ戦艦、旧日本軍の軍資金、諜報部員の権力、諜報部員の役職などだ。
「社外から侵入されたってことか?セキュリティーを外す方法はねえか?」
「待ってください・・・。
どうもこの三つ、『旧日本軍の軍資金』、『諜報部員の権力』、『諜報部員の役職』の三つだけですね。これらは閲覧できないようになってます」
「セキュリティーを外してくれねえか」
「やってみますね。過去にもハッキングに対処しました。なんとかなります。
この事、編集長に伝えますね」
野本タマは自分の席へ戻っていった。
「くそっ、やられた。内調だぞ・・・」
真理が吐き捨てるように言った。
「サスケ!しかたねえから、ありきたりでいい。旧日本軍の戦艦を調べてくれ。
その合間に、戦時中の政府組織と役職を調べて、そっから推測するしかねえな。
あたしもハッキングを編集長と話してくるベ」
「了解、調べるよ」
佐介は、信州信濃通信新聞社のデータベースとインターネットの情報を集めた。
データベースのハッキングについて田辺編集長と話しあった真理は、
「おおよその見当はついていたらしい。政治圧力だべさ。講義すると言ってた。
戦艦が撃沈された記事は、一週間以内にまとめればいい。その間にタマちゃんがハッキングに対処するだろう」
と言って自分のデスクに戻っていった。
佐介は一日かけて、信州信濃通信新聞社のデータベースとインターネットの情報から、旧日本軍の戦艦が撃沈された記録を集めてファイルにした。
旧日本軍の戦艦が撃沈された内容を記事にするには、しばらくかかりそうだ・・・。
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