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二十 司法権行使
翌日、午前。
「昨夜、首都高湾岸線で乗用車が運転を誤って側壁に接触し、炎上しました。
この事故で、車を運転していた伊藤忠聡さん、同乗していた田原義昭と須藤剛さんが死亡しました。原因は伊藤忠彬さんの酒酔い運転による・・・」
赤十字病院の外科病棟の病室で、TVのニュースが事故を報道している。
「伯父さん、統括的司法権、使ったな・・・」。
真理はテレビを見ながら、ベッドの佐介にそう言った。
「伯父さんとは限らないよ。内閣監房に席を置く特務官は他にもいるはずだ」
佐介はそう言ったが、昨夜の田原義昭逮捕の現場で、佐介はオフレコで佐伯警部から、
『政府組織を私物化した者には統括的司法権を行使します』
と聞いている。
「家に盗聴器がしかけられた時、伯父さんは内密で連絡してた。
伯父さんか、他の誰かわからねえとしても、統括的司法権が使われたったことだ。
サスケ。ありがとうな・・・」
真理は納得してベッドの佐介に頬ずりした。
「イタタタッ!どうした?真理さん?」
佐介の顔は包帯が捲かれ、顎はギブスで固定されている。
「うん・・。
曾祖父ちゃんの裏の役職は伯父さんと同じ特務官だった。これもサスケの調査のお陰だ。
それにしても極秘とは言え、伯父さんは、なぜ、曾祖父ちゃんの裏の役職を私たちに話さなかったんだろう?
もしかして、特務官は小田家の家系に代々引き継がれてんのか?
それなら、伯父さんが継ぐ前、祖父ちゃんの代は誰が特務官だったんだろう?」
「真理さんの曾祖父ちゃんの親は、戦時中は戦闘機を作ってたんだろう。そしたら政府に顔が利くね。
戦艦など兵器について、政府の内情をいろいろ知ってたんだろうな・・・」
佐介はそう呟いた。
「あっ!もしかしたら・・・、終戦間際、おそらく曾祖父ちゃんは東南アジアへ行った。それも内密に飛行機で・・・。
特務官なら、独断でそれくらいはできたはずだ。だから、内調の伊藤忠彬がアルバムについてというより、金塊について、曾祖父ちゃんの記録を知りたかったんだ・・・。
祖父ちゃんの代の特務官が誰だったか、そのうち調べよう・・・」
そう話しながら、真理は思っていた。
だけど、何よりも悔しいのはあたしのサスケが怪我して事だ。いくら武道が強くたって、あんな狭い階段で不意打ちを食らえば、身体のでかいサスケは身動きできねえ。
傷痕は残らねえと医者は言ってたが、あたしの心には、大事なサスケに怪我をさせちまったという後悔の傷が残った・・・。
サスケの身を守るために、今度から、いつも二人で行動しよう!
真理は、また、サスケに頬ずりした。
「イタタタッ・・・。
真理さんが怪我しなくて良かった・・・」
佐介は左手で真理の手を握った。右手は、田原義昭に放った右正拳突きで関節が亀裂骨折したためギブスを撒いてある。
「相手を殴って、自分が骨折してりゃあ、世話ねえなあ・・・」
真理はそう言って佐介の頬に両手を当てて頬ずりした。
「イテテテッ・・・・」
「うるさい!だまれ!」
真理の唇が佐介の口を塞いだ・・・。サスケ、愛してんぞ・・・。
俺も真理さんを愛してんぞ・・・。
佐介の声が真理の心に響いた。
(了)
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