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十三 佐伯の伯父さん
佐介の連絡を受けて、真理はただちに佐伯警部の自宅にタクシーを乗りつけた。
佐伯は真理の伯父ではない。真理の母の再従兄にあたる。真理の曾祖父と佐伯の祖母が姉弟である。佐伯は真理の再従伯父である。
佐伯は自宅の居間で夕食を食べながら、
「わかりました。相手は内調ですね。何とか対処しましょう。
直接、会って話ができてよかったですよ。電話などは全て盗聴されてるはずです。今後も携帯の位置情報サービスは停止しておいてください。
会う時は今日のように、携帯を家に置いたまま、我家に来てください。公衆電話からの連絡は非常に良い対応でしたね」
と座卓の向いに座っている真理に笑顔で話した。
「サスケさん、どうしてるかしら?」
良子再従伯母さんが湯飲み茶碗に茶を注いで、佐伯と真理の前に置いた。良子伯母さんは夕食を食べずにサスケの身を案じている。
真理は佐介の身を案じているが食欲はある。夕食を食べながら、佐伯の話に応対している。
「十九時からまた尋問されると言ってた。今頃、再尋問だべな」
「明日の午後には、何事もなく解放されるでしょうね。問題はその後です」
真理は、佐伯の表情が険しくなった気がした。
「というと、どういうことだべ?」
「サスケさんの供述が現実に即しているか、検証するでしょうな」
「あたしたちを個別に尋問するってことか?」
「尋問はしないでしょう。物証を確認するはずです」
佐伯がお茶の茶碗を手にして真理を見つめた。
真理は、メガネの奥の佐伯の目が鋭く光ったように感じた。
「何するんだ?」
「自宅の調査です・・・」
「なんてこった!」
真理は慌ててその場を立とうとした。
「慌てないでください。向こうが動くのは、確証が取れてからです・・・」
「汚えヤツらだな!」
「そういうのを相手にするんだから、慎重に行動しましょう・・・」
そう言って佐伯はお茶を飲んだ。
「ちょっと、席を外しますよ」
佐伯はその場を立って洗面所へ行った。
しばらくすると佐伯が戻った。
「ところで、真理さん。お母さんたちは、なぜ、お曾祖父さんの役職に疑問を持たなかったのですか?」
「私も母さんも、曾祖父ちゃんの役職について、なんも気にしなかったさ。
祖母さんなんか、公用車が迎えに来ても、曾祖父ちゃんの役職は平だと思ってらしい。
曾祖父ちゃんも、役職について語らなかったから、祖母さんは曾祖父ちゃんの役職は何も知らなかったと話してた。
祖母さんが関東製鋼の入社試験を受ける時、曾祖父ちゃんから、
『麻田君の会社だから、一声かけときますよ』
と言われたらしい。それで初めて曾祖父ちゃんが高い役職にいるのを知ったと話してくれたさ・・・」
関東製鋼は国内外に多くの子会社を持つ大企業だ。
「お曾祖父さんの力もあったでしょうが、真理さんのお祖母さんの実力でしょう。
あの人はネイティブな英語を話すはずですよ」
「ほんとか?そんなこと、聞いたことなかった・・・」
祖母が外国語を話すのを真理は聞いたことがなかった。もしかしたら、GIが東京駅で、おめかしした幼い祖母と祖母の妹の写真を撮りたい旨を曾祖父に伝えた時、祖母はGIが話す内容を理解していたのかも知れない。曾祖父は自身の写真を撮らないようにGIに話した可能性があるが、祖母は、GIと曾祖父との間で何が話されたか、何も話さなかった。
「真理さん、どうしました?」
「いや、祖母さんの話を思いだしてた」
真理は、幼い祖母と祖母の妹の東京駅での出来事を佐伯に説明した。
「それはあり得る話ですよ。お曾祖父さんが特別な役職についていれば、記録に残るのを避けたでしょうからね。
ところで、お祖母さんがアルバムを廃棄したのは本当ですか?
お母さんのことだ。お祖母さんが廃棄すると言っても、お曾祖父さんの形見の品を、お母さんが廃棄させるとは思えませんね」
佐伯は真理を見つめて微笑んだ。
「アッハハハッ。伯父さんにはかなわねえな。ここにあるべさ」
真理は、膝の横に置いてあるショルダーバッグを示した。
「サスケから連絡がきて、すぐに、ここに入れて持ち歩いてる。これが一番安全さ」
「真理さんのことですから、廃棄したというのも、サスケさんとお母さんとの打ち合せどおりだと思いましたよ。
アルバムの内容は、おそらく、サスケさんの推察どおりなんでしょうね」
「そうなら、サスケが危ねえぞ!
サスケから連絡が来るから、自宅に帰る!
サスケのこと、伯父さん、よろしく頼みます」
「何とかしましょう・・・」
佐伯はじっと何か考えはじめた。
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