十五 盗聴盗撮波探知器

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十五 盗聴盗撮波探知器

 佐介との通話が切れた。  真理はショルダーバッグを持って自宅を出た。本通りへ歩き、タクシーを拾って、長野駅とは逆方向の北東へタクシーを走らせた。 「ここで待っててください」  吉田四丁目でタクシーを降りて、真理は、シャッターが降りたオーディオショップの裏口のドアを叩いた。 「閉店後にすまない。ちょいと相談に乗ってくれ」  真理は、ドアを開けた店長の冨樫晃にそう言って店内に入った。冨樫は大学の一年後輩だ。 「実は、政府の特殊機関が、あたしの周りを盗聴監視しようとしてる。  県警の伯父が忠告してるから、まず、まちがいねえ。  あたしでも盗聴機器を探れる、電波探知器のいいやつあるベか?」 「俺が協力しますよ。姐御」 「だめだ。相手はおそらく内調だ」 「内調って、内閣情報調査室ですか?」  オーディオ機器や通信機器を扱っている冨樫は驚いている。 「おそらくな。  サスケが今日、内閣府の特別室に監禁されて、さっき解放された。  これから、長野駅へ迎えに行くんだ。盗聴されてれば家で話もできねえべさ」 「サスケは何をしたんですか?一日で盗聴器をしかけるなんてことができるんすか?」 「国会図書館で戦時中の事を調べたら、内閣官房の極秘事項にヒットしたらしい。  いろいろ身元調査されて、一応、解放された。まだ、不審に思われてる」 「それで盗聴ですか?」 「ああ、そうだ。伯父は、慎重に行動しろと言ってたさ」 「わかりました。これがいいいですね」  冨樫は事務デスクの引き出しの奥から、携帯ラジオほどの盗聴盗撮波探知器を取りだした。 「アンテナを伸ばして、ラジオを聞く要領でイヤホーンでアラームを聞くんです。ハウリングが強くなった所から盗聴電波が出てます。全周波数帯をカバーするから、どんな盗聴器も逃しません。警察無線も傍受できます。この電波探知器は御法度だから他言無用ですよ。  それとパソコンや携帯などが乗っ取られてないかチェックしてください。乗っ取られてれば消費電力で判断できます。こっちのチャンネルに切り換えると、乗っ取りがチェックできます」  冨樫は盗聴盗撮波探知器を操作して見せた。 「わかった。いくらだ?」 「無料ですよ。姐御とサスケのためだ」 「ありがとうよ。解決したら一杯飲むべさ」 「早い解決、期待してます」 「じゃあな」 「見送りませんよ。これも持っててください。電磁波遮蔽バッグです。携帯を入れれば携帯の乗っ取りも盗聴も不可です」 「ありがとう」  真理は盗聴盗撮波探知器と電磁波遮蔽バッグをショルダーバッグに入れて店を出た。 「待たせてすみません。長野駅へお願いします」  タクシーは長野駅へ走った。  真理は長野駅で佐介を出迎えた。  佐介が近づくと、真理は佐介の耳元に口を近づけて、 『携帯のスイッチを切ってこれに入れろ』  と耳打ちし、電磁波遮蔽の小さなバッグを示した。  佐介は携帯のスイッチを切って小さなバッグに入れた。真理はそのバッグをショルダーバッグに放りこんだ。真理自身の携帯は家に置いてある。 「これで、携帯からの盗聴はできねえぞ!  あらためて、お帰り!ちっと時間がかかるが、歩くべ!」  真理は佐介の腕をとって歩きはじめた。二十二時を過ぎている。こうして歩きながら話す方が盗聴の危険はない。 「さっき、公衆電話から佐伯の伯父さんに、佐介が解放されたことを連絡しといた。  伯父さん、何も言わなかったけど、先方へ連絡したんだな」  真理は佐伯の自宅で、佐伯が食卓から席を外した事を思いだした。伯父さんはトイレと言って途中で席を立ったが、あの時、内閣官房へ連絡したんだな・・・。   佐介は今日の出来事をひととおり説明した。  説明を聞いた真理に、疑問が湧いた。 「金塊の話は事実として考えていい。  曾祖父ちゃんは、公にはできねえ役職に就いてた。  今となっては、金塊より、曾祖父ちゃん役職の方が極秘だべな・・・。  ヤツラ、何をする気だべ?」 「ヤツラの態度は穏やかだが、ヤツラがやってたのは逮捕監禁だ。おまけに、警備員は俺に拳銃を向けて取り囲んだ。  警察関係でも、逮捕監禁できる場合は限られる。  おそらく、俺が極秘事項を嗅ぎまわってる、と思ったんだだろうな・・・・」 「内閣情報調査室か・・・。  ヤツラは、曾祖父ちゃんが通ってた夜学の事に触れなかったんだな?」  真理は、佐介が内閣官房へ連れて行かれた理由がわかった気がした。 「触れなかった。戦時中の話はしなかった」 「サスケが母さんに説明した戦時中の話は、核心を突いてたってことだな・・・。  あたしも、曾祖父ちゃんが通ってた夜学って、陸軍中野学校だと思う。  調べてみっか」 「社会部で調べるわけにはゆかないか?  家が盗聴されてないか確認するのに、時間がかかるだろう。  パソコンや携帯が乗っ取られてたら大変だぞ」 「田辺編集長に相談してみっか・・・」 「頼むよ!」  佐介は真理の手をさすりながら歩いた。  この夜、オーディオショップの冨樫から得た盗聴盗撮波探知器で自宅を調べたが、盗聴器や盗撮器は見つからなかった。
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