十七 捜査

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十七 捜査

「妙だぞ?」  夕刻帰宅して、真理と佐介は玄関前に立った。真理の視線は防犯ライトに照らされた玄関のドアの隙間に注がれている。  今朝、出がけに、 「家ん中と同じに、セキュリティーさ」  真理は、軒下にあった鳩の羽毛をドアの隙間にはさんで出勤した。  しかし帰宅した今、ドアに羽毛はない。周りを見ても羽毛は見あたらない。 「施錠してあるぞ!誰かが、侵入を気づかれねえようにしたんだな・・・」  家に入って玄関の照明を点けて廊下の照明を点けた。廊下から見える各部屋のドアの下に真理の長い髪がおちている。今朝、真理はドアに髪の毛を貼りつけて細工していた。  真理が声をひそめた。 「誰かが部屋に入ったぞ。伯父さんに連絡する。携帯が盗聴されたってかまうもんかっ」  サスケを監禁して、信州信濃通信新聞社のデータベースをハッキングして、今度は家宅侵入だ・・・。真理は身の危険を感じた。 「ああ、伯父さん、家に誰か侵入した。ドアの・・・・」  佐介は真理に身ぶりで、居間に入る、と示して、ドアノブをハンカチで包んでまわし、居間へ入った。  照明を点けた。荒された様子はない。テレビ台や書棚のわずかな塵に、置いてあった本を動かした微妙な跡が残っている。防犯カメラの記録を再生すると、午後から夕刻までの録画が抜けていた。  侵入者は、俺と真理が新聞社にいたのをどうして知った?  佐介がそう考えていると、真理が廊下から居間に入ってきた。 「何かわかったか?」 「ああ、侵入者は本棚を探してた!目的はアルバムだろう!  防犯カメラの記録が午後から夕方まで消えてる!  侵入者はここで、真理さんと俺が新聞社にいたのを確認してたんだ・・・」 「社内に内調の手先がいるんか?」 「信濃通信社のコンピューターをハッキングして、端末から、俺を監視してたんだろう。  ここまでITを駆使されると手出しできない!  危険だから調べるのはやめよう!」  家のどこから盗撮盗聴されているかわからない。佐介は真理だけがわかる合図で、 『どの機器で盗聴統率しているか調べよう』  と同意を求めた。盗撮盗聴を意識した微妙な雰囲気が佐介と真理を包んだ。 「しかたねえ、あきらめるか・・・。だけど、戦艦の記事はまとめろよ!」 「わかってる。編集長との約束は守るよ!」 「曾祖父ちゃんの役職はわかんねえままかよ・・・」 「曾祖父ちゃんの裏の役職は、伯父さんみたいな、政府内の人間を監視する諜報員だ。  しかも、伯父さん以上のかなりの権限を持ってた。  内調の伊藤忠彬は、俺が真理さんの母さんに話した事を肯定してた。それが証さ!」 「曾祖父ちゃんの役職だけでねえな。戦艦が軍資金の金塊を運んだまま撃沈されたのを認めたんだからな!」 「極秘だったろうに、口を滑らせた。軽はずみなヤツだな!  伊藤忠彬の上司が俺たちの話を聞いていれば伊藤忠彬は処分を免れねえぞ」  ドアチャイムが鳴った。佐伯警部が室内に入ってきた。  佐伯は鑑識官に指示して佐介と真理の指紋を調べ、室内に残された指紋や遺留品、盗聴器や盗撮器、IT機器の乗っ取りの捜査を指示し、各部屋の状況確認に、佐介と真理を立ち合わせた。  一階の捜査を終えて、二階の書斎で、 「一階同様に、本棚の塵に本を移動させた痕跡がありますね」  間霜刑事が特殊なライトで塵を浮きあがらせている。 「引き出しも細工しといた。静かに開けとくれ」 「これも小田さんの細工ですか?」  山本刑事はデスクの引き出しの下にある数本の髪の毛を採取している。 「ああ、引き出しに一本ずつはさんでおいたさ。全部開けて中を確認したんだな」  山本刑事は静かに引き出しを開けた。 「一見、中身の配置はそのままだが、位置が微妙に違ってる・・・」  真理は、引き出しの中身を引き出しの取っ手の板にぴったり付けて、静かに引き出しを戻していた。こうすれば中身は引き出しの取手の板に付いたままだが、今は、中身が奥へ移動している。 「無くなった物は?」 「なさそうだ。最初から無い物を探したって、出てくるわけがねえさ」 「なんですか、それ?」 「曾祖父ちゃんの遺品のアルバム。日本軍の戦艦の撃沈海域が全部載ってたさ。祖母ちゃんが処分しちまった・・・」 「そりゃあ、貴重品だ。残念だな」  そう言う割りに山本刑事は興味なさそうだった。 「佐伯さん。一階と同じように、指紋と髪の毛が出ました。  盗撮器と盗聴器もです。照明内と火災警報器、コンセントの中にありました。パソコンが乗っ取られてました。  二人の携帯を調べさせてください・・・」  書斎にある佐介と真理のパソコンは電源を切って電磁波遮蔽カバーを被せられている。鑑識官はその場で佐介と真理の携帯を鑑識官のパソコンに接続して調べはじめた。 「佐伯さん。こっちに来てください」  他の鑑識官が佐伯警部を呼んだ。書斎の机にあるパソコンを示して、 「これにも乗っ取りのアプリを見つけました・・・。これは政府の物です。  内調の諜報に巻きこまれたら・・・」  鑑識官は声をひそめて後半の言葉を言った。真理の仕事は佐伯警部から聞いている。事実を知るまで真理たちは取材を続けるだろう。そうなれば二人の身に何が起こるかわからない・・・鑑識官はそう思った。 「だいじょうぶです。二人は状況を知ってます。  彼は昨日、内調に逮捕監禁されて、解放された身です。状況はわかってます。  パソコンを起動してください・・・」  佐伯は鑑識官にそう伝えた。  鑑識官は、電磁波遮蔽カバーを被せられた佐介のパソコンの電源を接続して起動させた。 「内調の物なら、盗撮している側の映像を出せますね。出してしてください」  鑑識官は佐介のパソコンを鑑識のパソコンに接続して操作した。 「エンターキーを押せば映像通信できます」 「ありがとう。では、全員席を外して一階へ移動してください」  刑事と鑑識官、佐介と真理は書斎を出て階下へ降りた。  佐伯はパソコンのエンターキーを押した。  ディスプレイに男が現れた。 「特務官の佐伯です。こんな事をいつまでも続ける気ですか?」 「我々にも立場がある」 「初動対応をまちがえて、極秘事項を明かしていては、立場も無いでしょう。  そちらで探している物は廃棄されて存在しませんよ。  役職について二人は核心を突いてます。説明すれはそれで済む事でしょう。口外するような人たちじゃありませんよ」 「そうは言うが・・・」 「くどいですねえ!私が特務官の任務を仰せつかった経緯を、あなたもご存じのはずでしょう。これ以上の手出しは無用に願います!後の事は私が対応しますから、機器の乗っ取りを解除してください」 「役職を話すのか?」 「親族として知る権利があるでしょう!私が特務官の任務を仰せつかった経緯をあなたもご存じのはずだ。同じ事を何度も言わせないでください!」 「しかし・・・」 「では、この件から手を引いて、二人の身の安全を保障しなさい!機器の全てを健全に復帰しなさい。命令です!」 「わかった・・・」  映像が消えた。  これで全て解決した。週末に、我家で夕飯を食べながら二人に説明しよう・・・。  佐伯はそう考えて微笑んだ。この件に関して本部長に事実を説明するしかないだろう・・・。
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