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二 叔母
S大工学部から十分ほどで車が長野駅前に着いた。車を立体駐車場に入れて真理は何も話さず繁華街へ歩いた。佐介は何か話そうと思ったが話すことがないのに気づき、何も話さず真理のあとを追った。
「ここが叔母の店」
大きなショーウインドウに、装飾文字でJewelryPandoraとある店の前で、真理がふりむいた。店外にネオンサインや看板はない。そのことが高級イメージをもたらしているように感じる。小さくJewelryPandoraと書かれたガラスドアを開けて、真理と佐介はJewelryPandoraに入った。
中年の女が真理と佐介に気づいて、愛想をふりまいて小走りに近寄った。
「あーら、いらっしゃい!真理ちゃん、こちら、どなた?
私は真理の叔母、原田伸子です」
チンがじゃれるように、小柄な叔母は佐介と真理を見あげた。
「飛田佐介です」
佐介は自己紹介した。その他の事は、
「ノブチン、じつはね・・・」
真理が密着取材を説明した。
「うん、うん、ホテル長野なの・・・」
叔母はショーウインドウ越しに、通りの相向いのホテルを見つめている。
「それで、朝、試験会場へ送って、取材して、試験が終ったら、ホテルへ送るんだ」
「それなら、真理ちゃん。今晩からうちに泊まるといいわ。真理ちゃんの家より、うちのほうがホテルに近いでしょう」
真理に提案する原田伸子から笑みが絶えない。佐介は、最初から仕組まれていたような、妙な気がした。
「そうするか。朝、遅れたら、面目ネエもんな」
真理が叔母の提案に恐縮している。
「うんうん、そうなさい。
飛田さん、佐介さん、必ず真理に送り迎えさせるわね。
取材費を払ってないんなら、それくらいしなくっちゃねえ」
原田伸子は佐介ににじり寄った。こうなると完全に人なつっこいチンだと佐介は感じた。真理が叔母の原田伸子をノブチンと呼ぶのも頷け気がする。
ノブチンは真理との関係を佐介に説明した。
原田伸子、ノブチンの家は長野市の旧市街中央南部だ。つまり長野駅とS大工学部の中間にノブチンの家がある。JewelryPandoraはノブチンの夫が経営する店だ。
一方、真理の家は旧市街の中央北東部にある。長野駅の北部で長野駅と信州信濃通信新聞社の中間に真理の家がある。
真理の実家はノブチンの実家であり、佐介と同様に隣県にある。真理は大学の関係でこの県に来たまま、ここに住み着いた。佐介と違うのは、真理は裕福な家庭の娘で、大学入学と同時に実家が買い与えた5LDKの一戸建てに住んでいる。
真理の監視役が叔母の原田伸子。真理の母・小田佳子の妹で、チビのちんちくりんのノブチンだ。ノブチンに子どもはいない。そのため真理を我が子のように思っている。
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