七 朝風呂

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七 朝風呂

「台所の保存庫にある古いアルバムは何だ?  ラーメンを探してて見つけた。旧日本軍の戦艦の就航から沈没までの写真があった」  真理の家の風呂は広い。大きな浴槽に浸かりながら、佐介は真理に訊いた。 「あれは、曾祖父ちゃんの遺品だ。祖母ちゃんが持ってたけど、母さんが預かって、あたしにまわってきた」  浴槽の縁をたどって、真理が佐介に近づいた。 「曾祖父ちゃんは、何者?」  佐介はにじり寄る真理に訊いた。 「戦前から国家公務員やってた。戦後は定年近くに建設省の参与になって、高速道路公団に天下りした。大動脈瘤破裂で急死。肝臓癌だった。あたしの母が三つの時だったと話した」  真理の言葉が途切れた。母の話を思いだしたらしい。 「あのアルバム、終戦後から曾祖父ちゃんの手元にあったのか?」  佐介は真理に手を伸ばした。 「そうだよ」  真理が佐介の手を握り、静かに引いた。 「不思議だな」  真理がゆっくり佐介に近づいた。 「何が不思議なんだ?」  佐介は真理を後ろ向きにして、真理を背中から抱きしめた。真理の尻が佐介の脚の間にある。佐介の手は真理のお腹を抱きしめている。 「戦艦大和の就航は機密事項だった。大和が撃沈された海域も公には不明になってる。  なのに、アルバムには大和が就航した日時と、撃沈された日時と海域が書かれてた。他の戦艦にも、撃沈された海域と日時があった」  佐介は真理の尻を少しだけ足の方向に移動させて、真理の後頭部を佐介の左肩から左胸にかけてもたれさせた。こうしないと興奮した佐介が真理に当って大変だ。 「政府の役人だったから、知ってたんじゃないのかな・・・」  真理は佐介の状態を察し、右手を背後にまわして佐介の太股を撫でた。 「まだ発見されてない戦艦や空母の撃沈海域と撃沈日時が書いてあった。  戦時中、曾祖父ちゃんの役職は何だった?」  佐介は真理のお腹を撫でて、真理の胸と太股へ手を移動した。 「平の職員だったと祖母ちゃんが話してたよ」  平の職員があんなアルバムを所有できるはずがない・・・。佐介はそう思った。  真理の手が興奮した佐介に触れた。 「あっ、サスケの潜水艦、発見!エンジン音感知!」  握りしめて笑っている  「発見されたか・・・。  戦時中、曾祖父ちゃん、どこの役所に務めてた?」  佐介は気持ちをおちつかせようと話を続けた。 「わからないな・・・。  終戦間際、東南アジアへ出張する予定が、終戦で中止になったと祖母ちゃんが言ってた」  真理は手を少しずつ移動しながら佐介を触れている。  平の職員が激戦地へ出張するはずがない。そういうことをするのは特別な役職の人物だ。  佐介は真理の太股から下腹部へ手を移動した。 「曾祖父ちゃん、役所へ行きながら夜学に通ってた、と祖母ちゃんが言ってた」  真理が佐介をさすっている。 「終戦間際に夜学というのも妙だな」  何か隠してたな。何だろう・・・。そう思いながら佐介も真理をさすった。 「曾祖父ちゃん、東京大空襲の時は、覚悟して布団かぶって寝てたって話したらしい。  原爆が投下された直後の広島へ派遣されて行き、長崎へ移動中に長崎に原爆が投下されて、原爆投下直後の長崎にも行ったって話した・・・」  曾祖父ちゃんが肝臓癌だったのは被爆していたからか?真理の祖母は被爆二世、真理は四世か・・・。そう考えたら、佐介の興奮はいっきに冷めた。 「祖母ちゃん、曾祖父ちゃんが何をやっててたか、知ってるか?」 「何も知らないと思う。家に居て家庭を守り、夫の指示に従うだけの人だから、自分の父親の事なんか知らなかったと思う。  アルバムだって、祖母ちゃんは何も知らないし、興味も無いから、母が気づかなければ、処分されてたはずだよ。原爆の話、気になったか?」  真理は、佐介の興奮が冷めたのを気にしている。 「だいじょうぶだ。今、祖母ちゃんはどうしてる?」 「地元の高級老人ホームにいるよ。お友達がいて、楽しいんだって・・・」  佐介は真理をさすった。真理の吐息が聞える。真理の吐息が佐介の顔にかかり、佐介は元気になった。 「そうか・・・」 「あたしは、サスケが居るからうれしいぞ」 「俺もだ・・・」  佐介は真理にはお着換え騒動で驚かされた。真理と、真理の母、真理の叔母、佐介の母、皆、曲者だ。まだまだ驚くことはあるはずだ・・・。
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