護衛

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 私は死んだ。死んだと言える理由は"私が生きていたから"だ。これは私の誇りである。  私がマスターを銃弾から守った時、中枢の記憶を司る部位に損傷を受けた。全体の8割 近い情報が失われたが、幸いにも現状の把握には残り2割の一時記憶で対処が可能だった。  私は格闘戦を繰り広げ、辛くも敵を撃退した。だが無傷とはいかず、受けたダメージか らもう僅かな間しか動く事はできないと自己診断した。  マスターは慟哭していた。何かを滅茶苦茶に喚き散らしているが、その内容はほとんど が聞き取れない。意味を要約すると以下の内容を何度も繰り返している事が判明した。 「死なないでくれ。自分はお前無しでは生きていけない」  まだ追っ手が来る。泣いている場合ではない。ここを早く動かなければならないのだ。  私はマスターに独りで逃げるよう促し、生き延びて下さいとすがりつく彼を押しのけた。 だが彼は中々離れようとしなかった。お前も生き延びると約束しろ、と彼が言うので承服 するとやっと離れてくれた。  彼を逃がし安堵する。  同時に嘘をついた事を少しだけ後悔する。  中枢ユニットにダメージを受けている私はもう過去のデータをロードできない。平和だ った頃、マスターと幸せな時を過ごしていたであろう記憶の全てが消えてしまっていた。 記憶の死だ。今の私は外見が生きていても既に死んでいるのだ。 「マスター、ご無事で・・・・・・」  それはとても大切な記憶だったのだろう。もう思い返す事はできないが、感情を司るシ ステムは昂ぶって涙を流させる。全て作り物の身体だが精巧に作られていた。  しかし満足だ。私は自分が生きていた事に満足している。  自分が何の為に存在しているのか、その答えに迷い続けていた頃とは違う。 私は迷わず一番大切な人を守る事を実行できた。それだけでこの命の意味があったよう に思えた。  私は冷たい機械ではない。暖かな命を持ち生きていたのだ。今それが失われた事により 明らかになった。これは私の誇りである。 * * *  内蔵ユニットのタイマーによると最後の一時記憶から半年が経過していた。私は何者か が接近してくるのを、スリープモードのままセンサーにより感知した。一時記憶に残る最 後の聞き覚えある声が私に告げる。 「絶対にお前を連れて帰る」
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