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人気のない路地裏で、エイッツラルグはその娘と初めて相対した。
「………今回の仕事は、私ひとりだと聞いていた」
無表情にーしかしその声音には明らかな敵意を滲ませているーその娘は第一声、そう呟いた。
エイッツラルグは僅かに首を傾げ、娘に口を開く。
「さて。私はこの組織に入ったばかりだ。そんな事を言われても知らないとしか答えようがないな」
松葉色の瞳は昏く、翳りを帯びてエイッツラルグを睨んだ。あくまで冷ややかに見返すと、娘がまた口を開く。
「邪魔するなら殺す。命が惜しければ私の邪魔はするな」
「………」
エイッツラルグは娘の言葉がー少なくとも脅しではない事を理解した。殺気は冷たく鋭い。久々に他人から向けられる心地良い感覚に、嗤った。
だが、その笑みを侮られたと思ったのかもしれない。無表情だった眉間に僅かに皺を寄せる。
「何が可笑しい」
「別に可笑しくて笑ったわけではないが」
エイッツラルグはレイピアの剣の柄に手を置いて、微笑んだ。
「気に障ったなら謝罪するが」
「別に要らない」
「そうか」
エイッツラルグは頷いて、さらに続けた。
「同じ組織にいるのに仕事を共にするのは初めてだな。私はエイッツラルグ。名を聞いても?」
娘の白い髪が左耳にした黒い羽のピアスと共にふわりと風に揺れる。その風の中に、あるかなきかの声で娘が答えてきた。
「ーオルカ」
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