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青年は動揺した様子を見せなかった。血を浴びながら、オルカに突っ込んでくる。
「灯!!」
青年の名前を誰かが叫んだ。だが、冷たい目をした青年はそれを無視した。
オルカは突っ込んでくる青年の首に向かって糸を放ち、巻きつけた。
力をこめれば青年の首が飛ぶ。が、その前に青年がナイフを放ってきた。オルカの手元を狙って。
オルカは舌打ちして糸をほどいて、その場から駆け出した。一瞬後には、青年の蹴りがオルカのいた場所を通りすぎる。壁に当たった蹴りの音からして、顔面を蹴られていたら恐らく骨が粉砕されていたかもしれない。
「痛ぇな……避けるなよ」
壁にぶつけた足を振って、青年がゆうらりとオルカに体を向けて告げてくる。
「黙って捕まった方が楽だったって後悔したいの?」
「後悔なんかしない」
「あ、そう」
つまらなそうに、青年は太腿の革ベルトからナイフを引き抜いた。オルカが身構えた瞬間、ナイフが青年の手から突然消え去る。
風切り音がした。ー頭上から。
オルカはまた飛び退いた。頭上から青年が持っていたはずのナイフが落ちてきて、床に深々と突き立った。
(異能力。転移?)
オルカは胸中で呟きながら、曲絃糸を放った。青年は、首に巻き付く筈だった糸を片腕を振って防いだー否、防いだように見せて、オルカはその腕を切り落とすために力を入れた。
力をこめるのは、一瞬。青年の腕に糸が食い込んでー
血飛沫があがった。
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