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青年の言葉に考える事もなく、オルカは言った。
「死んでも御免だ。糞喰らえ」
青年は吐き捨てられた言葉に笑ったようだった。お手上げというように。
「そこまで言うなら仕方ないな」
掴んだ手首を捻りあげられる。オルカは呻いた。手からナイフが抜け落ちた。だが、オルカは押さえられている手とは逆の手で太腿のベルトからナイフを引き抜いた。刃を突き立てる。が、怪我のせいで手元が狂い、それは青年の胸ではなく、肩に突き立った。
青年が初めて痛みに声をあげた。オルカから手を離し、馬乗りになっていた彼女を力任せに突き飛ばす。オルカは床を転がった。
そこにいたのはあのふくよかな男で、転がってきたオルカに悲鳴をあげた。隠れていたらしいが、オルカが躊躇などなく、人間を殺したのを見ていたのだろう。腰を抜かし、わめく。
「な、何をやっているんだクソ犬ども!早くこの女を殺せ!!」
オルカは呻きながら立ち上がった。
猟犬だけでなく、そういえばこの男も殺害目標に入っていたのを思い出していた。
「ひっ」
男の体に糸を巻きつけた。その目が恐怖に見開かれる。それを見つめたまま、オルカは糸に力をいれた。
血の雨が降った。
温かく、ぬめり気のある赤い雨。
口の中に鉄の味が広がったように思ったけれど、気のせいだろう。
白いドレスも真っ赤に染まった。先ほどまで着なれない心地でいたが、それが気にならなくなった。
青年を振り返った。血に濡れた糸が光る。彼はそんなオルカを見て、首を傾げたようだった。
「気はすんだ?……なんて言えないか」
「…………殺す。狗も、何もかも。そうしたら」
そうしたら?オルカはそれに続く言葉を言うのをやめた。
……ただ、目の前の猟犬に向かって、再び武器を放った。
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