鴉のなく夜に

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エイッツラルグは血に泥濘んだ絨毯を踏みしめた。目の前には、折り重なるように転がる死体。ダシューに突き立てていた剣から冷気が放たれ、彼は目を見開き、体は霜に覆われて真っ白になっていく。 内部から体を凍らされたダシューは何も言葉を発せれないまま、事切れた。 エイッツラルグは剣を引き抜いた。もはやただの肉塊となったものに彼の興味が失せたところで、悲鳴があがった。 視線をそちらに向ければ、娘を捕らえようと襲い掛かった猟犬の足や腕が千切れて飛んでいた。派手に血飛沫があがり、オルカはその雨に打たれながらさらに武器を振るう。彼女自身も怪我をしているようだったが、まるで気にしていない。 そんなオルカの攻撃から、水色の髪の青年がひとり避け、背後にまわるのをエイッツラルグは見ていた。 「ーー……」 エイッツラルグは氷刃を放った。青年に向かって。 青年はその風切り音に気づいたようだった。舌打ちし、距離を詰めることを諦め、その場から飛び退く。 氷刃が床に当たって砕けた。 「………!」 間近にいたオルカの動きが虚をつかれて止まる。 「…………あれ。あんただったんだね」 青年ー連月灯は、エイッツラルグの姿を見て、軽く驚いたようだった。エイッツラルグも薄く笑う。歩いて近づきながら、エイッツラルグは口を開いた。 「野良猫が猟犬になっていたとはな」 「野良猫って呼ばれるのが嫌でね」 軽口を叩くが、明らかに灯はエイッツラルグと知って焦っているようだった。今この場でエイッツラルグに勝てる猟犬はいないとーといっても、ほぼオルカが始末したあとだがー思っているようだった。 「人身売買のオークションの捕り物だけかと思ったら鴉まで絡んできてるなんてね。……ターゲットも殺されたみたいだし、これは不味いかな。流石に。始末書もんだよ」 「安心しろ……今ここで死ねばそんなもの書かずに済むだろう」 エイッツラルグは剣を構えた。
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