こびりつく

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 Aがもう一つのイヤホンを寄越した。こちらもナプキンでごしごし擦ってから耳に入れてみる。 やはり曲以外には、何も聞こえない。 「やっぱ、曲しか聞こえねえよ。何なんだよ」  いらついた俺は説明を求めた。 「おかしいな。こっちの方は、さっきから曲に被ってずっと何やらブツブツ聞こえるんだよ。なんていうか、声みたいな雑音みたいな、何だか分からないけど、とにかくブツブツブツブツ言ってやがる」 「何て言ってるんだ?」 「だから、人の声なのか雑音なのかも分からねえんだよ。当然、何て言ってんのか分からん」 「とにかく、両方とも外せよ」  俺の言葉にしぶしぶAはイヤホンを外した。 「何て言ってるのか、何の音なのか分からないから、もう、余計に気になっちゃってさ。聞けば聞くほどイライラしてくる。気になって気になってしょうがないから、ここんとこずーっとイヤホン差しっぱなしなんだ」  少し病的なAの様子が気になったので、俺もちょっと真剣になった。 「いつ頃から聞こえてきたんだ?」 「三日ほど前からだ。曲の聴き始めは何ともないんだが、気が付くと聞こえてるって感じだ」 「曲を変えてみたら?」 「他の曲でも聞こえる。ジャズとかヘビメタとか、曲のジャンルを変えても聞こえる」 「じゃ、イヤホンの不具合だろう」     
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