掃除をしているように見えるお婆さん

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 車中で仕事の先輩が言った。 「おい、あそこの婆さん居るだろ?掃除してるヤツ」  俺が左前方を見ると、道路で座り込んで素手でゴミ拾いをしている老婆が居た。 「ええ。良い人ですね。綺麗好きなのかな」  先輩は違うんだよと否定の声を上げる。 「よく見てみな。ああして集めたゴミを全部側溝に捨ててんだよ」 「えぇ?!マジすか?!何やってんだあの人」  俺が目を凝らして見ていると、確かに老婆はドブ板の隙間からゴミを捨て始めた。 「いつもあそこでああして、毎日のようにゴミを側溝に詰めてんだ」  先輩は眺めながら続ける。 「いずれあそこの下水溝が詰まっちまうよな。クソババアだよ」    お掃除する良い人という印象から一気に悪人。奇行に走る不気味な老人になった。 「ちょっとお前、行って注意してこいよ」 「えぇ?!嫌ッスよ!怖いじゃないですか」  あの老婆が何を考えているのかちょっと気になる事は確かだが、まともな思考をしていないような気がした。  先輩はニヤニヤしながら、ヤベーよなアレはと笑った。
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