1人が本棚に入れています
本棚に追加
もしかしたら、彼女は私の視線に気付いていて、私と同じように私のことを見ているのかもしれない、と、一瞬そんな思いが頭を掠めたけれど、すぐに頭を振ってそんな考えを振り払った。
私は頬が熱くなる。
彼女の視線が私のことを見ている気になったから。そんなことあるはずないのに。
彼女が私を見ているんじゃない。私が彼女を見ているのだ。
彼女の瞳はただ光を受け、それを反射させているだけに過ぎない。悲しくなってしまうがそれは紛れもない事実であるから仕方のないことだった。
私のこの熱い思いを、無機質的に受け流す彼女はなんと罪作りな存在だろう。可愛さ余って憎さ百倍というのもわからないことじゃない。
私がこんなに陶酔的で倒錯的な好意を抱いているのに、彼女は人見知りの野良猫みたいにつんとすましてそこにあるだけ。
私がこんなに思ってやってるのになんで気付かないんだ。貴女をこんなにも慕っているのにどうしてそんなすました顔でいられるのか。いっそのこと私の瞳に映る貴女を粉々にしてしまおうかなどと、半ば狂気的な思考に陥りそうになるのだけれど、強く握りこんだ手に爪が食い込む痛みで理性を保った。
「本当に貴女って罪な人よね」
そう……呟いてみれば、戻ってきた理性のお陰か肩から力が抜け落ちて背もたれにストンと体が納まった。
最初のコメントを投稿しよう!