この思いよあの子に届け!

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 私は彼女から視線を外し左手を見る。  そこには包帯が巻かれている。  思春期の乙女の悩みが顕在した証なのに、あの閉経間近のババア――もといママにはそれがわからないのだ。  なんだよ。今日は餃子じゃなかったのかよ。うら若き乙女は今日は餃子の気分なんだよ。  本当に大人というものは若者の微妙かつ繊細な心理を理解できないらしい。 「ふんとにもう」  私は呆れて天井を仰ぎ見る。  まあいい、今宵の宴は春巻き――それもまた一興。久方ぶりの中華料理に私の左腕の包帯に隠れた部分が疼きだす。 「静まれ……我が左腕よ。まだ贄は供えられてはいないのだからな」  私はそう言いながら左腕を掴んで押さえつけると、お腹がぐうと鳴り響いた。  今階下の居間に向かえばママの言いなりになっているようで面白くはないのだけれど、一度空腹と認識すると、ますます腹が減ってしまってお腹とお腹がくっついてしまいそうだ。  彼女の観察を止めるのは、非常に惜しく、後ろ髪引かれつつも、私は一度、彼女と別れなければならない。その寂しさを慰めるかのように窓から風が入ってきて私の火照った体を撫でていく。  ああ。少し冷静になると、今度は不安が私の心に広がっていくのがわかる。     
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