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もし私がここで彼女と別れてしまえば、もしかしたら一生涯私は彼女の姿を見ることが出来なくなってしまうのではないか。ギリシャ神話にありがちな悲恋のように、私の思いもまた、世俗に儚く散っていくのではないだろうか。
なんともアンニュイな気分になってしまい、窓辺においてある花瓶に顔を近付け、活けてある水仙の匂いを嗅いだ。まだ花は咲いていないのだけれど、薬味のような匂いが私の鼻腔に広がり気付け薬のような役割を果たす。
この水仙の花はママが裏庭から取ってきたものらしい。何を考えているのかママはこれを冷蔵庫の中で保管していたのだ。まったく危ないったらありゃしない。水仙には毒があるのに間違って食べてしまったらどうするのだろう。
そう思いながら私はこれを処分しようと思ったのだけれど、花を愛でるうら若き乙女という構図は、大層良いものに思えたので、部屋に持って来て花瓶に活けたのだ。
「ほんとママって私のことをなにもわかってないね。フニ子ちゃんもそう思うでしょ?」
私の問い掛けにフニ子ちゃんは黙って葉を揺らすだけ。
チッ。乙女が聞いてるんだからファンシーな感じで応えろよ。
私は仕方なく夕飯を食べに居間へ向かうことにした。
部屋を出ようとしたが、最後にもう一度彼女の顔を見てからにしようと思い直した私はまた椅子に座って鏡を見る。半ばお決まりとなった呪文も忘れずに唱える。
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