第1記

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俺の言葉と苛立ちは部屋の臭いによって押しつぶされた。龍馬の部屋には鉄臭い臭いが充満し、モノは床に散乱されていた。だが肝心の龍馬の姿はどこにもない。 「どうなってるんだ……」 また言葉が漏れた。なんて強烈な悪臭だ。吐き気がする。俺は左手で鼻を抑えながら部屋を散策した。奥の窓は空いている。龍馬はここから出たか、もしくは誰かがここから侵入したか。いずれにしても普通の事態ではなさそうだ。電気を付けようとしたが反応がない。おそらく壊れているのだろう。 ベッドに近づくと臭いがよりキツくなる。どうやら臭いの元はこのベッドのようだ。暗闇で良く見えないが血は大雨の後の水溜りのように染み込んでいる。 ベッドに近づいたせいか、吐き気がさらに酷くなる。俺は一度部屋を出ようとベッドを離れようとしたその時、枕の横に何かあることに気付いた。いや、気付いてしまったと言うべきだろうか。一刻も早くこの場所から離れたい気持ちよりも、それが何かを確かめたい気持ちの方が強かったからである。 枕は入り口から最も離れた部屋の隅で、形がかろうじて分かる程度だった。俺は離れかけたベッドにもう一度近づいた。目が暗闇に慣れてきたのもあってか、「それ」がはっきり見え始めーー。     
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