第1記

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日が沈み始めたので俺は家に戻ることにした。夜になると帰るための目印が見えにくくなるからだ。あの能力を試す中で晩飯用の猪も狩ったから、ここに長居する理由はない。その帰路の途中、俺はある違和感を感じていた。もう何度もこの森に来て、何度もこの道を通っているが、何というか、この森がいつもと違う森に感じるのだ。木にはしっかり目印の縦傷は付いている。夕暮れになると景色も変わるのもわかる。だが、それだけでは説明できない何かがあった。そしてその違和感は、より明確になって俺の目の前に姿を現した。 「……何だこれ」 思わず言葉が漏れる。片岡さんの家までだいたい300mところに、それはあった。半径30mくらいだろうか。ある一点を中心に、まるで円を描くように、そこ一帯の木が切り倒されていたのである。その異様な光景に俺の脳は危険信号を発していた。そこから離れろ!じゃないと死ぬぞ!と頭の中で叫んでいる。だが逆に、俺の身体はその光景に吸い寄せられていった。切られた木は、1度の傾きもなく真っ直ぐ両断されている。他の木も全てそうだった。剣術に詳しくはないが、これが並大抵の人間にできる技ではないのは俺にも分かる。     
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