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「俺ん家の先祖……華僑だろ。小学校の頃はそれでよくからかわれたりしたんだ」
大和が手の中で手紙をもてあそぶように揺らしながら、そっと呟いた。
「……からかう?」
うんそう。と頷きながら、大和が微かに笑う。
「別に俺自身は生まれも育ちも日本だし、そもそも両親が日本男児として育てたいって思ったから、大和なんて名前を付けたんだし。そんな細かいこと気にする質じゃなかったし、だから、別にいいやって思ってたんだけどさ。やっぱ日本人じゃないっていうのは、周りから見たら違和感あったのかな? 体の良いいじめってやつ? もちろん言われて黙ってる俺じゃなかったから、喧嘩して相手をのしてやったし、いじめ現象っつーほどいじめられてもなかったけどさ」
「…………」
いつも明るくて元気な大和からは想像もつかなかった言葉だった。
「ガキってさ。自分達と違うっていうことが、なんで許せないんだろうなって、あの頃は思ってた。たかが名前じゃんって。何処で生まれようと誰の血を引いていようと、んなの全然関係ないじゃねえか」
「……大和……」
「だから、俺は平気だった。全然平気だった。でも、平気じゃない子もいたんだ」
大和はそっと慈しむように手紙に書かれた鄭という字を指でなぞった。
「俺も最初は知らなかったんだけどさ。いじめられるのが嫌だったからなのか、両親が気を利かせたのか、本当は中国名持ってんのに、日本名の偽名を付けてきてる女の子がいたんだ。俺のクラスに」
「…………」
先の展開を予測して結月は思わず息を詰めた。
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