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『諦めたくないから、相談してくれたんだよね?』
ラジオから、雪村涼が俺にそう尋ねて来た。
まさかこの悩みを加藤亮介にチョイスしてもらえるとは思っていなかったし、雪村涼に返事を貰えるなんて本当に、本当に思ってもなかった。
『親子丼さんはこの約束を、煩わしいとか、面倒だとかは思ってなくて、今も尚、叶えたくて仕方ないモノなんだよね? だったら行こうよ』
優しい声だった。トンっと軽く背中を押してもらえたような……。
『二人だけの大切な約束を、きちんと形にするのは男である親子丼さんの腕の見せどころじゃねぇの? 約束の形は、理想から多少変わったっていいよ』
仕方ねぇよなって、俺の気持ちを全部汲み取ってくれた雪村涼に、涙が溢れた。
例え、蘭ちゃんに新しい恋人が出来ていても、俺はそれを良かったねと祝福してやれる男になろう。それが理想。その通りだ。
約束を……叶える。形を変えても叶える。だから死に物狂いで蘭ちゃんを探し出そう―――、そう決めた。
それからすぐ、12月の締め日で仕事を辞める決意をした。
というのも、蘭ちゃんの実家の住所を思いもよらない人から教えてもらったからだ。蘭ちゃんの所在を知る人物を探すと決めてすぐ、俺は最後の喝を入れて貰おうと思って、どれだけかぶりに日下さんの店を尋ねたのだ。あの一件以来、一度も訪れなかった日下さんの店。その日下さんが、蘭ちゃんの実家の住所を知っていた。
「な……んで、これ……」
懐かしい蘭ちゃんの字。
ノートに書かれている住所。
「なんでって、もしもの時のためだよ。本当はすぐにでも追いかけてやって欲しかった。来るのが遅すぎる、寺島」
仏頂面で怒られた。けどそんなの、俺知らないし。日下さんが蘭ちゃんの実家を知ってるなんて、思うわけないだろ?
「地元で店を出すって言ってた。東京を出たのは8月1日の朝だったと思う。早けりゃもう、店を開いてるかもしれない。急ぐんだ。約束していたんだろう? 一緒に店を出そうって」
手渡された住所録。
すぐにでも飛んで会いに行きたかった。だけど、仕事をしながらだと何度も行き来できるような場所ではなくて、一ヶ月、耐えて耐えて……正月。俺は新幹線に飛び乗り、電車を乗り継ぎ、日下さんからもらった住所録を握りしめて、見知らぬ土地に降り立った。蘭ちゃんが生まれ育った場所―――。
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