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「良かったぁ、今日は麻美こないかと思ったよ~。」
「寝坊したの。最近寒くて布団から出られなくてさー、気づいたら二度寝してた。」
「あ、分かるそれ!」
電車内にて。
家から電車を乗り継ぎ2時間かかる学校まで私は通っている。車酔いの激しい私には地獄だったが、慣れると本も読めるようになった。
同じ方面の電車に乗る人は少ないが、そんな中でも一緒に通学できるのが、中学で部活が一緒だった松下陽菜。彼女は違う高校に通っているが、高校の最寄りの駅が奇跡的に同じだった。おかげで寒い朝の憂鬱な気持ちも、おしゃべりをしていればきれいに拭き取られてしまう。
「あ、乗り換え。」
「急がないと。」
***
あー・・・もう歩けない。
部活も終わり、夜の校門。
私の所属する合唱部は、1月のコンテストに向けて、かなり練習がハードになっていた。6時終了予定とかいいながら、もう7時だ。
おなか減ったなあ。
でも、買い食いすると・・・太るよなあ。
そんな葛藤を抱えながら、駅までの夜の道を歩いて行く。
『3番線電車は、■■駅での人身事故のため、運転を見合わせています。お急ぎのところ、申し訳ありませんが・・・』
うそぉ!?
なんと、電車が止まっている。家と学校間での電車の乗り継ぎが多いため、遅延には慣れていたが、この駅での運転見合わせは初めてだ。
どうしよう・・・どうやって帰ろう。
きっと、他の高校生だったら、スマホでひょいひょいとルートを調べて帰れるのだろう。だけど、私には問題がある。
スマホなど、持っていない。
5人兄弟で家計のこともあり、自分で通信料を払えるようになるまで、つまりバイトを始めて自分でお金を稼ぐようになるまで、スマホの所持を禁じられていた。唯一許されているのは、ネットにもつながらない、ママおさがりのガラケーだけだ。
しかたなく、母に連絡する。
『・・・もしもし?』
「あ、ママ?どうしよう、電車止まっちゃった。」
『いつ運転再開予定?』
「うーん・・・まだ、めどが立ってないみたい。」
『ちょっと待っててね。』
ちょっと待って。
『▲▲線で△△駅まで行って、そこで〇〇線に乗り換えて。定期外の料金がかかるけど、帰ってこれるわ。』
「了解。えーっと、▲▲線ね。」
『気を付けてね。』
ひとまず安心だ。
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