いまになってみれば

7/8
前へ
/8ページ
次へ
ところが、駅に着こうかというところで。 『お客様にお知らせします。車内点検のため、××線は運転を見合わせております。お忙しいところ・・・』 「やべえ、電車死んでる。」    つまり、止まってる。 「どうしよう。俺、今日携帯充電してなくて、死んでるんだよね。」  つまり、充電が切れている。 「俺、他の帰り方知らねえよ~。」 「・・・しょうがねえなあ。」  会田はちらりとこちらを見た。 「今から調べても間に合わねえし、俺、一旦ここで降りて、こいつの帰り方調べるわ。間宮は、このまま帰れるよな。 」 「あ、うん。」 「じゃあ、暗いし気を付けて。」 「いやぁ~ありがと佑ぅ~。」 「うるせえ、離れろ。」    抱きつこうとしてくる鈴屋を片手で押しのけながら、会田はスマホを探っている。 「いやあ、俺、お前がなんで中学でモテてたかわかったわ。優しいからだ!」 「知るかっ!」 「いや、だって、俺がお前だったら、お前のために駅降りてまでスマホいじってやろうと思わねえもん。それに、女子に『暗いから気をつけろよ!』的な気の利いたことなんか言えねえよ。」    急に顔に熱が昇っていくのを感じた。  会田がこっちを見ているのが分かるが、見返すことはできない。 「こいつ優しいよな、な、間宮さん。」 「あ・・・うん。」  ドアが開いた。  二人はもみ合いながら、遠ざかっていく。  と、会田の唇がわずかに開いた。  き を つ け ろ  そう言ったように、見えた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加