俺、死んだ?

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

俺、死んだ?

夕日が差し込む部屋の片隅で洗濯物を畳みながら、妻がボーっと一方向を見つめている。視線の先には、小さな仏壇。遺影の写真は俺…?。 「えっ?俺、死んだの?」 状況が理解できない。そもそも、妻を見下ろしながらのこの画は、普段のアングルではない。天井近くから眺めたような画だ。 ということは、俺の魂が彷徨っているってこと?少しづつ考えをめぐらし、状況を受け入れようとしている俺。 妻は、ハッと時計を見て、気持ちを入れ替えたように跳ね上がり、台所へ向かう。夕飯の支度のようだ。目に涙はないが、俺がいないことを少しは寂しく思っていてくれているのかなぁ?とちょっと嬉しく思う。 「ん?いやいや、そんな場合じゃないだろう。そもそも俺は何故死んだんだ?」肝心なところが判っていない。部屋を眺めてもその理由はわからない。そして、今気づいたが、音がない。見えているけど音がない。小説で読んだことがあるこの状況、音がないとは思わなかった。ということは、会話から死因を知ることは不可能ってこと。視覚から情報を得るしかない。 考えあぐねていると、娘が帰ってきた。 「ただいまー」 玄関のすぐ左が俺の部屋。娘はそのドアの方を見て「ふっ」と小さなため息をつく。そして、軽く?をパパンと叩き笑顔を作ると、もう一度「ただいまー」といって、奥のリビングに入って行った。 娘も寂しいんだ。生きている時は「うざい」「臭い」と悪態をついていた。中学・高校生の女子にはよくある反抗期なんだろう。周囲の友人女子も、「自分の子供を生むまではお父さんのこと理解できないよ」などというものだから、半ば諦めていた。機嫌を取りながら諛うのも逆効果だし、叱り飛ばすのももっと溝を深める。自然に、距離をおくのが一番だな!と自分に言い聞かせ、接してきた。その娘が、俺がいないことに寂しさを感じてくれている。そして、それを母親に気づかれまいと、そして元気付けようと笑顔を作っている。思いっきり抱きしめてあげたい衝動に狩られたが、魂だけの存在ではそれも叶わない。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!