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prologue 蜃気楼
僕はいつものように、バス乗り場から、発進している市内バスへと乗り込む。もうすぐ夕暮れという時間帯、ましてや平日に山奥へと向かうこのバスに乗っていく人なんて、殆どいない。
もう定位置になった、一番奥の右端に腰を下ろす。
西日が眩しいけれど、なんとなく端っこのところに収まるのが自分らしいと思ってしまうので、これからも席を変えるつもりはない。
そして、僕だけを乗せたバスが動き出す。
僕は文庫本を開き、自分の世界に没頭する。こうしてゆっくりとした時間を過ごせることが、僕にとってはなによりも大切な時間だ。
だけど、その平穏な景色に、僕の認識できない色が混ざってしまう。
今日も彼女は、僕の視界に存在している。
水色のワンピースのような制服。
長く伸びた髪は、藍色のリボンでまとめられている。
『森林植物園行き』
それが僕と、彼女が乗るバスの目的地だ。
僕は彼女から視線を外して、また本の世界へと入り込もうとする。
だが、活字で構成された世界は、僕を快く迎えてくれない。
空想の世界に入り込もうとすれば、視界には彼女の姿が目に入る。
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