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僕の住むこの街は、歴史が長い港町として有名だ。
そして、最近では海外から観光地としても注目されている。
「駅名が分かりにくい」という理由で、数年前に県庁所在地の名前が入った駅名が変更したことは地元ではちょっとしたニュースになったし、新しく設置された案内看板に書かれる言語の数も、どれも四種類ほど表記されている
まぁ、僕は生まれも育ちもこの街にべったりなので、観光資材の価値について疎いのかもしれないけれど、それなりに世間一般では有名な街だということだ。
しかし、観光客のインバウンド効果なんて見込めないだろう、薄暗い地下へと僕は赴き、階段を下りた先にあるドアを開ける。
カランカラン、とドアベルが僕を出迎える。
「いらっしゃいませ……おっ、仁くんじゃないか?」
カウンターから見える圭さんの顔がいつもの朗らかな笑顔になり、陶器でできたカップを拭くタオルの動きを止める。
見た目はまだ青年という感じで、ちょっぴりブラウンが入って短く切りそろえられた髪は、ほどよく彼のさわやかさを演出させている。
「えっ、仁?」
そして、僕に背中を向けていた従業員の女性が勢いよく振り返る。
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