第1話 丘と森と

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 公子様は何かのカギを、謎の馬車の中にある鍵穴に差し込んだ。  そして、力を込めてグイっと回した。すると、それはけたたましい音を立てて大きく震えだした。お尻から何か黒いものを吐いている。 「びっくりしたあ! 本当に動いた。すごいすごい!」  姉さんは興奮気味だ。かくいう私も結構興奮している。  いま、この乗り物は自分で動こうとしている。でも、御者は誰なんだろう。どうやって動くんだろう。 「公子様、この乗り物に御者は要るんですか?」 「御者は要らないけど、これを運転する運転手は必要だね」  公子様はそう答えて、少し考えているそぶりを見せた。  もしかして、この乗り物を運転できる人、このなかに、いない?    公子様の答えは、予想通りだった。 「誰か、運転できる者はいないものか」  だけど、誰一人手を挙げない。  ここに屋敷中の人が物珍しさに出てきてみているのに、誰一人いない。 「先進的すぎたかな」  公子様は、そう言って照れ笑いをした。  分からないわけじゃないけど、これすごく大きな買い物だと思うんだよね。  大丈夫なの、公子様?
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